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明治大学広報
第585号(2007年7月1日発行)
論壇
土壌汚染と引当金
 
経営学部長 平井 克彦
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 私の専門は会計学の中でも「引当金」という狭い分野である。会計をあまり知らない人でも、貸倒引当金とか退職給付引当金などという言葉くらいは耳にしていると思う。貸倒引当金というのは現在まだ貸倒れになっていないが、将来の貸倒れに備えて費用を予め用意しておくという引当金である。退職給付引当金というのは将来に予定されている退職金や年金の支払に備えて費用を予め用意しておくという引当金である。しかし、最近、「何だ。この引当金は?」というような引当金が見られるようになった。

 東京都中央卸売市場(築地市場)の豊洲地区への移転を巡って、土壌汚染が問題になっている。汚染土壌の入れ替えや新たな土盛り、表面のアスファルト被覆などのために多額の費用が必要になっている。過去に有害化学物質を埋めた企業を買収した会社が損害賠償を求められるケースもある。買収した企業は半世紀前に買収前の会社が埋めたPCBによる汚染土壌の除去にかかる費用を東京都から請求されている。

 従来、無害の物質として使用してきた物質が、後の化学的知見によって有害な物質であることが判明する場合もある。例えば、金属部品の洗浄剤のほか溶剤や化学製品の合成原料として使用されてきたトリクロロエチレンや、ドライクリーニングの洗浄剤として広く使われていたテトラクロロエチレンによる環境汚染が懸念されている。汚染した土壌を浄化するために多額の費用が必要になる。

 有価証券報告書を見ると「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法により今後発生が見込まれるPCB廃棄物の処理費用に充てるため、その所要見込額を引当金として計上した」と記述した企業は相当数ある。

 A社は平成18年3月期に土壌汚染処理損失引当金約56億円を、B社は平成17年3月期に土壌浄化対策引当金約6億円を設定している。C社は平成16年3月期に、同社が吸収合併した会社が過去に有していた工場にかかる汚染負荷量賦課金の支払いに備えるため、汚染負荷量引当金として計上している。この他にも、Dグループは、平成17年12月期に建物及び設備等に使用されているアスベスト及びポリ塩化ビフェニル(PCB)の撤去、処分等に関する支出に備えるため約59億円の環境対策引当金として計上している。

 これらの引当金は、「貸倒引当金」や「退職給与引当金」のように、その原因が存在する年度に「費用を予め用意しておく」というものではない。企業が過去にすでに汚染した土壌ついて何年か経過して突発的に発生した浄化費用に対して計上するものである。こうした引当金を計上しなくてすむような将来の環境に予め用意しておく経営を望みたい。



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