第586号(2007年8月1日発行)
本棚
「変容するアメリカ研究のいま
-文学・表象・文化をめぐって−」
牧野有通 ほか著、(小林憲二編著) 彩流社、 3,500円 |
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本書に含まれる17編の論文は、著名な研究者が多く執筆し、文学、文化、映像などそれぞれの分野で「アメリカ」を研究した最新の成果である。
牧野の論文「逆説としての鎖国―『タイピー』に浮かび出る「近代」」は、19世紀アメリカの作家ハーマン・メルヴィルの『タイピー』に描かれている太平洋のタイピー族も、日本の江戸時代と同様、西洋との接触のない「鎖国」状態だったことに注目し、その状態の中にメルヴィルと主人公トンモの西洋文明への批判的な視線を認めている。
日本人メルヴィル研究者は、アメリカ人研究者に比べて、希少な資料へのアクセスの困難など不利な点が多いが、著者は海外での学会発表なども積極的に行い、高く評価されている。
著者のこうした、日本の歴史と関わらせて論じるという手段が、本論のなかで主張されている「未開人」からの視点のように、日本人研究者からメルヴィルへ対する一つの有意義な視点となっているからであろう。
アメリカ文学研究者のみならず、日本、西洋の近代史に興味がある方にはぜひお読み頂きたい。
西浦徹・文学部講師(著者は文学部教授)
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