第589号(2007年11月1日発行)
本棚
「ドイツ現代文学の軌跡
マルティン・ヴァルザーとその時代」
遠山 義孝 著 (明石書店、5500円) |
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第二次世界大戦後のドイツの小説家といえば、まず二人のノーベル賞作家ハインリヒ・ベルとギュンター・グラスの名が浮かぶが、それに並ぶ第三の男は、マルティン・ヴァルザーで決まりだろう。
グラスが進歩的文化人の立場を代表してきたのに対し、ヴァルザーは市民的常識派の考え方を代弁して、過去の清算問題でも東西統一問題でも両者はよき論争相手だった。
常識派といっても、現代社会はとかく常識の通じないところである。したがって、ヴァルザーの発言はしばしばドイツ社会の臓腑を衝き、物議を醸すことがある。そんな彼の文学を遠山氏は、長期にわたって追いかけてきた。本書はその総決算である。
ヴァルザーは戦後以来ドイツ社会の変転に応じて息の長い活動をしてきた作家なので、ヴァルザーを総括的に考察する本書は、同時に特定の視点から現代ドイツの社会と文学を見直すことにもなっている。とりわけユダヤ問題について詳しく扱われているのが注目に値する。
遠山氏はまた、作家本人への独占インタビューを敢行し、その全文を収録しているのも貴重な資料である。
神品芳夫・元文学部教授
(著者は理工学部教授)
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