第590号(2007年12月1日発行)
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「連句 虚空を貫き」
夏石番矢(乾昌幸)ほか 著 (七月堂、1600円) |
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本書は国際俳人、夏石番矢とポルトガルの詩人カジミーロ・ド・ブリトーとの連句の共著である。奇数頁にはブリトーによるポルトガル語の俳句とその和訳、英訳、仏訳があり、偶数頁には夏石の句とそのポルトガル訳、英訳、仏訳がある。各頁が示しているのは異なる言語によるポリフォニーなのだ。
彼らの試みは俳句を日本に固有なものであるとする閉鎖的な伝統への挑戦であり、そのことが我々に突きつけているのは、翻訳によってしか関係をもてない多言語の厳しい現実なのである。
しかしその現実を超えて諸々の言語を繋ぐものがある。ブリトーは詠む。「虚空を貫き/音楽地に達す/詩人二人は同じ心」。夏石も。「泉は広げん/水・風・ことばの/同心円」。言葉の壁を通して互いを繋げるものは、「同じ心」であり、「ことば」の「泉」なのだ。それなくしてはあらゆる言語の関係が不可能になるような根源的なものがそこにはある。連句を繋ぎながら俳人たちはこの源泉のまわりを彷徨しているのだ。
この意味で本書は「日本」と「国際」について深く考えさせてくれるものと言えよう。
岩野卓司・法学部准教授
(著者は法学部教授)
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