第592号(2008年2月1日発行)
本棚
「神楽坂ホン書き旅館」
黒川 鍾信 著 (新潮文庫、590円) |
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本書は5年前にNHK出版から出たロングセラーの文庫化である。
石畳の路地や横丁が売りの神楽坂が昨今大変なブームで、そのキッカケを作ったのが本書である。なぜならこの旅館がある路地が町内で最も風情があるからだ。また過去50年間にここで映画・舞台・テレビなどの優れた脚本(業界では脚本を「ホン」、それを書く人を「ホン書き」という)が3千本以上も書かれたからである。
ホン書きだけでない。多くの作家もここで小説を執筆した。が、この旅館は、「見ざる・聞かざる・言わざる」を守り、これまで館内の様子を外部に漏らさなかった。
ところが開業50年を機に、旅館はその歴史や執筆現場の全貌を明らかにすることになった。それを可能にしたのは、映画通・文学通の著者が旅館経営者の甥で、ここを仕事場としている山田洋次監督や野坂昭如氏などに取材できたからである。
この旅館は、別称「出世旅館」と呼ばれ、ここで生まれた多くの映画や小説がさまざまな賞を受賞している。著者も本書で「第51回日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞している。
金子邦彦・情報コミュニケーション学部教授
(著者は情報コミュニケーション学部教授)
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