第596号(2008年6月1日発行)
本棚
「私たちのシェイクスピア ─ヒーロウたちの熱きたたかい」
由井 武夫 著 (新水社、2400円)
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「百万の心を持つ」とうたわれるシェイクスピアのゆえんを解き明かす、まさに万人向けに開かれた珠玉の解説書が出た。
その明快でよどみない語り口に誘われて、シェイクスピアの全悲劇を読み解く旅に出掛けると、なるほど「悲劇」は悲しみの劇ではなく「完遂、勝利のドラマ」であることがおのずと納得されてくる。
さらにここで展開される精緻な読みは、悲劇の枠を超え、広く歴史劇、喜劇、ロマンス劇等、他ジャンルの戯曲を解釈する上でも有効な視座を提示してくれる。
本書の基調を一貫してなしているのは、著者の揺るぎない人文主義に裏打ちされた、惜しみない人間賛歌だ。今年5年目を迎える明治大学文化プロジェクトの公演監修を務める原田大二郎氏の挿し絵が、言葉に一層の彩りと躍動感を与える。舞台と併せて読めば、幾重にも充実した豊かな観劇体験が得られよう。
シェイクスピアは遠くない。古典でありながら常に新しい。そのことをストレートに実感させてくれる熱く厚い一冊である。
西尾洋子・文学部講師
(著者は元法学部教授)
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