第598号(2008年8月1日発行)
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「体系的哲学者キケローの世界
─ローマ哲学の真の創設」
角田 幸彦 著(文化書房博文社、3500円) |
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私たちが日々感じている孤独・忙殺・悲嘆が無知によることを教え、勇気を与えてくれる好著が出た。著者の単独執筆13冊目となる「体系的哲学者キケローの世界」である。著者主宰の「ローマ精神史研究会」で学ぶ筆者としても、待望の研究書である。
ヨーロッパの精神的バックボーンといわれるキケローは、アカデメイア派をはじめとするヘレニズム期の四大哲学学派との平等な対話を通して、その体系性のローマ的継承を果たした。
この見解さえも実は著者によって初めて知るのだが、政治的苦境と愛嬢を亡くした失意のキケローが相前後して著わした5作品を、テオプラストスによる哲学的体系にのっとって論理学、自然学、倫理学のかかわりとして丹念に論考している。私たちは、毅然とした正義の実現と幸福の達成に政治の目的を置くキケローのヒューマニティーが意外でないことを知る。
暗く破滅的な時を重ねる現代だからこそ、謀略的カエサルと対峙した多事多難な生涯にあってさえ、自己抑制を政治活動に振り向け得たキケローに学ぶことは多い。
小川廣男・農学部講師(著者は農学部教授)
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