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明治大学広報
第606号(2009年4月1日発行)
本棚
「消え去ったアルベルチーヌ」
プルースト 著、高遠弘美 訳(光文社古典新訳文庫、705円)
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 長大な難物で有名なプルーストの『失われた時を求めて』の完訳を三種類も持つ日本が既に不思議だ。『カラマーゾフの兄弟』の亀山郁夫訳が歴史的メガヒットとなった光文社古典新訳文庫にプルーストのこの超大作を入れるとしたら何をどうすべきか。今更めいてもいるし、頭の痛い課題。担当訳者高遠弘美は意表突く名案でこの難題をクリアーした。

 七部から成る大作の第六部(『消え去ったアルベルチーヌ』)に照準を定め、プルーストが死の直前まで試み続けた削除・修正の激しさが折角成ったプルースト学の屋台骨を揺るがしかねないとして敬遠され邦訳もされてこなかった「最終稿」を初めて日本語書界に知らしめるという大胆不敵の挙に出たのである。プルーストの修正で、どこがどう変わったのかは懇切な学問的注が教えてくれる。

 結婚直前に姿を消し、再会せぬ間に死の報が届けられる恋人のことで「私」の脳 裡に生じる終わりのない問と答の循環、狐疑逡巡、愛憎併存心理の吐露が蜿蜒(えんえん)と続く。旧字旧仮名さえ自在の屈指の日本語遣いの訳が見ものだ。

 高山宏・国際日本学部教授(訳者は商学部教授)



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