過日、徳田教授から、一冊の岩波文庫を頂戴した。「夢物語」というロマンチックな表題に誘われて読み始めたのだが、すぐに、自分の不勉強さを思い知ることとなった。馬場文英の名は、明治一五年に施行された刑事二法の注釈書『治罪法対照刑法付則訳義』の著者として知ってはいたものの、氏による解説を読んで初めて、文英の人物像や著作の特徴を、また本書こそが日本近代の起点をペリー来航に置いた最初の書物であることを知った。さらにまた、京都生まれの評者は、しばしば京都御所の蛤御門に残る銃弾の跡を撫でては、元治元年七月の変に思いをはせたが、その戦闘の様子をもっとも詳細に描いたのが本書であることも、初めて知った。

　徳田教授による詳細な脚注と解説によって、文英が、ひとつの事件や事柄を記述するにあたり、基本的に同時代の豊富な記録や文書に拠りつつも、ある場合には異聞を採り、またある場合（とくに蛤御門の変の戦闘部分）には自らの見聞に拠ったことが論証されていることも、復刻版としての本書の価値をいっそう高めている。

　村上一博・法学部教授（校注者は法学部教授）



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