第613号(2009年11月1日発行)
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「いじめの構造─なぜ人が怪物になるのか」
内藤 朝雄 著(講談社現代新書、760円) |
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本書は、著者の「いじめ学」を一般向けにわかりやすく再編したものである。いじめという現象は、単一の価値観を児童・生徒に押しつける「学校」という閉鎖的な空間において、個人の利害計算と他人に対する支配欲とがあいまって発生する。それゆえに学級制度の廃止がいじめ対策へとつながる。これは、本書の中で著者が繰り返し訴えていることである。
この理論は、長年にわたるフィールド研究もさることながら、おそらく著者自身が高校時代に体験した管理教育との凄まじい戦いを背景に生まれてきたものなのであろう。このような体験の裏づけがあるためか、著者のことばは力強く、また直截的である。
さらに社会学者である著者がメラニー・クラインの精神分析理論を援用し、個人のどろどろとした内面を見事に考察している点にも注目したい。いじめを理解するためには、集団の力学とともに、個人の心を深く見つめねばならない。つまり、社会学と心理学とが交差する点に、新たな研究領域の可能性として「いじめ学」が存在するのである。本書を読んで、このことをあらためて感じさせられた。
高瀬由嗣・文学部准教授(著者は文学部准教授)
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