第614号(2009年12月1日発行)
本棚
「怖い絵3」
中野京子 著(朝日出版社、1800円) |
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大ベストセラー「怖い絵」「怖い絵2」に続く第3弾。今回もボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」、ベラスケス「フェリペ・プロスぺロ王子」、レオナルド・ダ・ヴィンチ「聖アンナと聖母子」など20の名画が取り上げられ、例えばヴィーナスの左右の表情が違うこと、かわいらしい王子の服や静かな表情について読み進めていくと、著者の博識と語り口に導かれて、それまでは見えなかった絵の恐ろしさや、背後にある人間ドラマが浮かび上がってくる。
神話や歴史上の人物から市井の貧しい人々まで、画家が描いたその一瞬から、著者は人間の恐ろしさ、悲しさ、愚かしさ、儚さを紡ぎ出す。登場人物、あるいは画家が置かれている状況やその背後にある歴史を知ることで、一枚の絵からこんなことまで読み取れるとは! 絵の細部まで「なるほど、そうなのか」と納得させられる謎解きのような楽しさと、胸うつ人間ドラマに触れる二重の楽しさが味わえる。「怖い絵」シリーズが3巻で終わることを惜しむ声が多々聞かれるが、本当にもっと読みたいと思う。
山岸明子・文学部講師(著者は理工学部講師)
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