第620号(2010年6月1日発行)
本棚
「政治哲学へ向けて」
−政治・歴史・教養(キケローとプラトン、ヴィーコ、ブルクハルト、アーレント、レオ・シュトラウス)−
角田 幸彦 著(文化書房博文社、2800円) |
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本書は、角田幸彦教授が60歳代で公刊した9冊目の著書である。その序文によれば、著者は、かつて60歳を迎える折、既刊の自著に加え、さらにその後の10年間に、良質な学術専門書10冊を改めて著そうと決意された由だが、今回、本書とほぼ時を同じくして、もう一冊の大著『キケロー裁判弁説の精神史的考察』の上梓も果たされたことのために、前記の「決意」は、単なる空想・妄想に終わることなく、見事に実現されるに至ったのだった。ただただ敬服・脱帽するほかはない。
ところで、本書の論述は、著者が主宰する「19世紀ヨーロッパ研究会」で、毎回なされる著者の発表に専ら基づくものだが、そこでは、西欧思想の全的把握にとって、ギリシア・ローマの古典(特に本書ではプラトンとキケロー)への広く柔軟な理解の必要性が常に強調されている。数年以前、ある偶然の経緯から、全く畑違いの私に同会への参加を勧められ、また今、本稿の執筆を慫慂された著者の意図にも、日本の古典研究の視野の狭さを自覚させたいとのご厚意が感じられてならない。
原道生・名誉教授
(著者は農学部教授)
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