第623号(2010年9月1日発行)
本棚
「ジョルジュ・バタイユ
─神秘経験をめぐる思想の限界と新たな可能性─」
岩野卓司 著(水声社、4500円) |
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故今村仁司氏の研究会で著者と出逢い、バタイユへの熱い思いを聞いてから四半世紀を超える歳月が流れた。共に二十代で、私はレヴィナス論を書いていた。
ジョルジュ・バタイユを論じることは難しい。バタイユの文体の妖しい魅力に捕らえられた者は陳腐な模倣に陥る。賢明に距離を取る者はくそ真面目な祖述に陥る。とはいえ、綜合不能なバタイユという多様体の謎を解く鍵が与えられていないわけではない。「内的経験〔外の脅威〕」という観念がそれだ。「経験」(エクスペリアンス)は「外の脅威」を意味するから、「内的経験」は鋭利な矛盾そのものだ。いかなる欠乏にも剰余を見る「蕩尽」も同様である。
著者はこれらの観念を詳細に読み解くところから始めて、一般に哲学、科学、宗教、文学などと称される領域を果敢に、しかし慎重に横断しながら、バタイユの思索と筆記の新たな可能性を伝えることに成功している。バタイユにおける消費の経済学も、過剰の宗教学も、近親相姦的エロスとヌードの文学も、われわれ自身の現在の情況に他ならないのだ。
合田正人・文学部教授(著者は法学部教授)
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