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プレスリリース

エタノールがユーグレナにおけるグルコースストレスを緩和することを解明 明治大学大学院農学研究科 環境バイオテクノロジー研究室の研究グループ

2026年04月01日
明治大学

エタノールがユーグレナにおけるグルコースストレスを緩和することを解明
明治大学大学院農学研究科 環境バイオテクノロジー研究室の研究グループ
明治大学大学院農学研究科環境バイオテクノロジー研究室の槇本美波(博士前期課程修了生)、小山内崇准教授の研究グループは、エタノールの添加が真核微細藻類 Euglena gracilis (ユーグレナ)の高濃度グルコース条件下における増殖低下を緩和させることを解明しました。

研究成果のポイント

  • ユーグレナは光合成を行い、パラミロンやタンパク質、脂質など有用成分を生産する能力を持ちます。
  • グルコースはユーグレナの増殖やパラミロン蓄積を促進する炭素源です。しかし、過剰なグルコースはかえって増殖を低下させてしまいます。
  • 今回、エタノールを添加することで、高濃度グルコースによる増殖低下が緩和されることを発見しました。エタノールの添加によって呼吸や細胞膜の組成が変化し、細胞の肥大化を抑制することで、グルコースのストレスを緩和したと考えられます。

要旨

微細藻類であるユーグレナは、光独立栄養、従養栄養、また混合栄養の条件で培養することができ、タンパク質やビタミン、脂質を生産することができます。また、ユーグレナの貯蔵多糖類であり、β-1,3-グルカンの一種であるパラミロンは、皮膚病の発症抑制やインフルエンザの予防に効果があることが報告されています。
 
グルコースを添加してユーグレナを培養することで、ユーグレナの増殖およびパラミロンの蓄積が促進されます。しかし、過剰なグルコースは高い浸透圧によってユーグレナの増殖を低下させることが報告されていました。

本研究では、高濃度のグルコースを添加して培養したユーグレナの細胞は、脱水・収縮するのではなく、肥大化することを明らかにしました。

さらに、エタノールを濃度0.5%で添加することで、400 mMという高濃度グルコース条件下におけるユーグレナの増殖低下を緩和することを明らかにしました。また、高濃度グルコースに加えてエタノールを添加した条件では、グルコースを添加していない条件と同様の紡錘形細胞が観察されました。

これらの結果は、エタノールがユーグレナにおけるグルコースストレスを緩和することを示しており、従属栄養条件下におけるユーグレナの生理学的側面を明らかにしました。

本研究は、明治大学大学院農学研究科環境バイオテクノロジー研究室の槇本美波(博士前期課程修了生)、小山内崇准教授らの研究グループによって行われました。また、本研究はJST革新的GX技術創出事業(代表:大熊盛也)、旭硝子財団(代表:小山内崇)の援助により行われました。本研究成果は、2026年3月18日に国際誌「Journal of Biotechnology」のオンライン版に掲載されました。

※研究グループ
明治大学大学院農学研究科 環境バイオテクノロジー研究室
  准教授 小山内 崇(おさない たかし)
  博士前期課程修了生 槇本 美波(まきもと みなみ)

1.背景

ユーグレナは食用可能であり、有効な代替タンパク質源として注目されています。また、タンパク質、ビタミン、脂質、およびユーグレナ類にのみ見られるβ-1,3-グルカンであるパラミロンを含有していて、パラミロンは免疫刺激剤として市販されています。

ガラクトースや乳酸、グリセロールなどの様々な炭素源の中でも、ユーグレナはグルコースを炭素源として使用した場合に最も高い増殖を示します。また、グルコースを添加してユーグレナを培養することで、ユーグレナのパラミロン蓄積も促進されます。しかし、グルコースが高濃度(60 g/L)になると、逆に増殖を阻害してしまいます。この増殖阻害は浸透圧ストレスに起因すると考えられています。

ユーグレナは、エタノールも炭素源として利用することができます。エタノールは、酢酸およびアセチルCoAを介してグリオキシル酸経路を通じて代謝されます。0.5%または1.0%のエタノール添加条件で培養されたユーグレナ細胞は、エタノールを添加せずに培養した細胞よりもパラミロンの蓄積量が増加し、細胞サイズが増加することが明らかにされています。さらに、ユーグレナをエタノール添加条件で培養すると、高度不飽和脂肪酸が生成されます。

グルコース、エタノール、リンゴ酸、グルタミン酸など、さまざまな炭素源を用いたユーグレナの培養について、これまでにいくつかの研究が行われてきました。しかし、増殖を低下させるような高濃度のグルコース条件下において、さらに炭素源を追加してユーグレナを培養し、その影響を調べた研究は行われていません。本研究では、高濃度グルコース条件下での増殖抑制がエタノールの添加によって緩和されることを実証し、ユーグレナの増殖を調節する上で外部からの炭素源が持つ生理学的重要性を明らかにしました。

2.研究手法と成果

本研究グループは、Euglena gracilis NIES-48株を、1% CO2をCM培地にバブリングしながら、12時間明条件/12時間暗条件の光条件で14日間培養しました。培地にグルコースを50~200 mM添加した条件では、グルコースを添加していない条件よりも生育が向上しました。一方で、300 mM以上のグルコースを添加して培養を行うと、グルコースを添加せずに培養した際よりも、増殖が低下しました。

顕微鏡観察の結果、増殖が低下する高濃度グルコース条件(400 mM)では、グルコースを添加していない条件よりも細胞の平均直径が増加しました(図1)。また、グルコース無添加条件でユーグレナは紡錘形の細胞であったのに対し、高濃度グルコース条件では丸く肥大化した細胞となりました(図1)。

高濃度グルコースによる増殖低下の原因を調べるために、グルコース添加に加えて、エタノールまたはメタノールに溶解したビタミンE、エタノール、メタノールをそれぞれ培地に添加して培養を行いました。その結果、エタノールに溶解したビタミンEまたはエタノールを添加した際に、高濃度グルコースのみを添加した条件よりも細胞数が9倍以上増加しました(図2)。また、エタノールを添加した条件では、細胞の平均直径も減少し、紡錘形の細胞を示すようになりました(図2)。

高濃度グルコース条件で細胞は収縮するどころか、むしろ肥大化していたことから、高濃度グルコースによる増殖低下は浸透圧による脱水が主要因ではない可能性が示唆されました。また、増殖が低下する高濃度グルコース条件でも、エタノールに溶解したビタミンEまたはエタノールを添加することで増殖が回復し、紡錘形の細胞が見られるようになったことから、高濃度グルコースによって誘発されるストレスを部分的に緩和した可能性が示唆されました。メタノールに溶解したビタミンEではストレス緩和効果が見られなかったことから、ビタミンEではなくエタノールが寄与している可能性が高いと考えました。エタノールによって高濃度のグルコースのストレスが緩和した原因は明らかではありませんが、過去の研究から、エタノールの添加によって暗所での呼吸活性が増加することが報告されています。このため、エタノールを加えることで炭素の分解を促進する呼吸が活性し、結果としてパラミロンの過剰蓄積を防ぎ、グルコースストレスが緩和された可能性が考えられます。また、炭素源としてグルコースを用いた際とエタノールを用いた際で脂肪酸組成が変化することが報告されており、細胞膜の組成変化などが高濃度のグルコースのストレス緩和に寄与した可能性も考えられます。

3.今後の期待

本研究では、高グルコース条件下においても、エタノールがユーグレナの増殖を部分的に回復させることを実証しました。ユーグレナは、他の炭素源と比較してグルコース存在下でより速い増殖を示すため、本研究で検討した培養条件は、この微細藻類の実用化において特に重要であると考えられます。高濃度グルコース条件下におけるエタノールによる増殖改善のメカニズムを解明するためには、さらに研究を行っていく必要があります。

4.論文情報

タイトル

Ethanol alleviates glucose stress from Euglena gracilis(エタノールによるEuglena gracilisのグルコースストレス緩和)

著者名

Minami Makimoto, Takashi Osanai

雑誌

Journal of Biotechnology

DOI

5.補足説明

  •  ユーグレナグラシリス(通称ユーグレナ)
    淡水生の原生生物であるユーグレナグラシリス(Euglena gracilis)は、緑藻に由来する葉緑体を有しています。また、柔軟性と形状維持をもたらすペリクル構造を持つ単細胞の鞭毛虫です。

参考図

図1. 培養14日後のユーグレナの細胞平均直径と顕微鏡写真
高濃度グルコースを添加した条件では、光独立栄養条件よりも細胞の平均直径が増加した(**p<0.005)。また、光独立栄養条件では紡錘形の細胞が観察されたのに対し、高濃度グルコース条件では丸くて肥大化した細胞が観察された。

図2. 400 mMグルコースを含む培地に様々な添加物を加えて培養したユーグレナの増殖と細胞サイズ
高濃度グルコースに加えてエタノールに溶解したビタミンEまたはエタノールを添加した条件では、高濃度グルコースのみを添加した条件よりも細胞数が9倍以上に増加した(p<0.005)。また、エタノールを添加した条件では、細胞の平均直径が減少した(p<0.05)。
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明治大学 農学部農芸化学科 准教授 小山内 崇
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FAX:044-934-7103

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