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プレスリリース

マイコドリの華麗な求愛ダンスの進化的起源を探る-果実食への適応が派手な求愛行動の進化を支えた可能性-

2026年06月30日
明治大学

マイコドリの華麗な求愛ダンスの進化的起源を探る
-果実食への適応が派手な求愛行動の進化を支えた可能性-

ポイント

  • 中南米に生息する小型鳥類マイコドリにおいて、果実食への適応が、派手な求愛行動や鮮やかな羽色の進化に先行して起きていたことを明らかにしました。
  • マイコドリは、旨味受容体を転用して果実に含まれる糖の味を感知する能力を獲得していたことを明らかにしました。
  • 味覚や消化といった基盤的な生理機能の変化を伴う食性の変化が、その後の行動や繁殖戦略の進化を促し、生物多様性の創出に繋がった可能性を示しました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)生命理工学院 生命理工学系の戸田安香准教授(明治大学客員研究員)と明治大学 農学部 農芸化学科の石丸喜朗教授らの研究チームは、マックスプランク研究所ディレクターのモッド・ボールドウィン(Maude Baldwin)博士、イーストカロライナ大学のクリストファー・バラクリシュナン(Christopher Balakrishnan)准教授らとともに、中南米に生息する小型鳥類マイコドリを対象に、ゲノム・機能・進化解析を統合した研究を行い、果実食への適応が、華麗な求愛行動や鮮やかな羽色の進化に先行して起きていたことを明らかにしました。

マイコドリはオスのみが鮮やかな羽色をしており、メスとの間に顕著な雌雄差(性的二型)が認められます。さらにオスは、宙返りや空中ジャンプ、音をたてる高速羽ばたきなど、鳥類の中でも特に複雑でアクロバティックな求愛行動を示します。しかし、こうした極端かつ洗練された行動がどのようにして成立したのか、その進化的な背景は十分に解明されていませんでした。

研究グループは、5種のマイコドリ科鳥類のゲノムを比較解析し、集団ゲノム解析や進化解析を実施しました。その結果、味覚受容体T1R用語1や消化酵素LPH(lactase-phlorizin hydrolase)などの遺伝子に、正の選択用語2がはたらいていることを見いだしました。そこで、培養細胞を用いてこれらの遺伝子から作られるタンパク質の機能解析を実施し、マイコドリでは旨味受容体であるT1R1/T1R3が糖を検出する能力を獲得していることを明らかにしました。また、LPHの機能が低下したことで、未熟な果実を食べても体内で有毒な化合物が発生しない可能性が示されました。これにより、マイコドリは高栄養な果実を効率よく利用できている可能性があります。

こうした生理機能の変化は、派手な羽色や求愛行動の進化よりも早い段階で生じていました。つまり、果実食への適応が、後の強い性選択を支える基盤になった可能性が示されました。

本研究により、感覚(味覚など)や消化といった基盤的な生理機能の進化が食性の変化を支え、それが行動や繁殖戦略の大規模な進化を駆動することで、生物多様性の創出につながった可能性が示されました。本成果は、6月10日付(米国東部時間午前11時)の「Current Biology」誌に掲載されました。

図1. Lance-tailed manakin(Chiroxiphia lanceolata(学名)、ハリオセアオマイコドリ)。メス(右)と比較して、オス(左)は鮮やかな羽色を有す。果実食に特化している。Photographer: Esteban Mendez, Location: Isla Boca Brava, Panama

背景

オスのクジャクの羽に代表されるように、異性をめぐる競争によって生じる「性選択」は、生物の多様な形態や行動を生み出す重要な因子の一つです。鳥類においては、マイコドリ、極楽鳥、コティンガといった派手な羽色と求愛行動で知られる鳥たちは異なる科に属しているものの、いずれも果実食に特化しています。しかし、この食性と羽色や求愛行動の進化の関連は十分に理解されていません。

本研究では中南米に分布する小型鳥類であるマイコドリに焦点を当てました。マイコドリは、多くの種においてオスが集団的な求愛場(レック)を形成し、メスをめぐる激しい求愛競争を行います。一方で、熱帯に生息し、年間を通じて果実を安定的に利用できることから、果実食に高度に特化しています。これまで、栄養豊富な果実の利用と性選択の関連が指摘されてきましたが、その遺伝的・生理的な背景は十分に解明されていませんでした。

研究成果

本研究では、5種のマイコドリ科鳥類を中心に、他の鳥類を含めた比較ゲノム解析を行いました。その結果、マイコドリでは性染色体(Z染色体)の遺伝的多様性が常染色体に比べ低下しており、一部のオスのみが繁殖に成功する強い性選択が長期的に生じてきたことが示されました。さらに、糖輸送体、代謝や消化に関わる酵素、味覚受容体など、食性に関わる多数の遺伝子で正の選択が検出されました。

さらに、味覚受容体の機能解析により、マイコドリでは本来、糖を認識できない旨味受容体(T1R1/T1R3)が、糖を感知する機能を獲得していることが明らかになりました。鳥類は一般に、甘味受容体(T1R2/T1R3)を構成するT1R2遺伝子(Tas1r2)を失っているため、糖の味を感知できません。しかしマイコドリでは、旨味受容体を糖受容体として転用することで、果実中の糖を感知する能力を獲得していました。この機能転換はマイコドリの系統の初期段階ですでに生じており、果実食への適応と密接に関係していることが示唆されました。

培養細胞系を用いて味覚受容体の機能を詳細に解析した結果、糖受容能の獲得に重要な22カ所のアミノ酸変異が同定されました。旨味受容体は下部が細胞膜に埋め込まれた構造をとり、食物中の味物質は主として細胞外に露出した大きな領域(細胞外領域)に結合します。今回同定した糖受容能の獲得に関与するアミノ酸変異の多くはT1R3の細胞外領域に集中していました(図2)。

これまでに本研究チームは、花蜜や果実を利用するハチドリや鳴禽類、キツツキにおいても、旨味受容体が糖受容能を獲得していることを報告しています参考文献1-3。興味深いことに、ハチドリではマイコドリと同様にT1R3の細胞外領域に重要なアミノ酸変異が集中していたのに対して、ハチドリよりもマイコドリに近縁な鳴禽類では主にT1R1の細胞外領域に変異が集中していました(図2)。これらの結果から、マイコドリは他の蜜食性鳥類と同様に旨味受容体を利用して糖の味を感知しているものの、その機能は系統ごとに異なるアミノ酸変異によって独立に獲得されたことが明らかになりました。

図2.糖受容能獲得に寄与するアミノ酸残基(彩色部位)。花蜜や果実を利用する複数の鳥類の系統において、糖受容能が独立に獲得された。ハチドリおよびマイコドリではT1R3の細胞外領域に重要なアミノ酸変異が多数同定されたが、ハチドリよりもマイコドリに近縁な鳴禽類の旨味受容体ではT1R1の細胞外領域に重要なアミノ酸変異が多く同定された。

また、消化酵素の機能解析を行ったところ、ラクターゼ(LPH)の機能に変化が認められました(図3)。この酵素は、ヒトでは母乳に含まれるラクトース(乳糖)の分解を行うことでよく知られていますが、果実に含まれる配糖体を分解するはたらきも持ちます。配糖体の中には分解されることで毒性化合物を生じるものがあり、特に未熟な果実には熟す前に動物に食べられることがないように、こうした防御物質が多く含まれる傾向があります。一方で、一部のマイコドリ科鳥類では、未熟果を摂取することが知られており、毒性をどう回避しているかは不明でした。本研究により、マイコドリでは配糖体に対するLPHの分解活性が低下することで、毒性化合物を発生させることなく体外へ排出している可能性が示されました。

また、糖の味検出能の獲得や消化酵素の機能低下は、派手な羽色や複雑な求愛行動の進化に先行して起きていたことが示されました(図3)。

本研究により、果実食への適応と性選択との関連が示されました。さらに、味覚や消化といった基盤的な生理機能の進化が、食性の変化を支えた可能性が示されました。果実という高エネルギー資源の利用がメスによる単独育児を可能にし、結果としてオスの繁殖競争が激化し、派手な羽色や精巧な求愛行動の進化を促したのではないかと考えられます。

図3.マイコドリにおける食性転換と消化・味覚機能の変化。派手な羽色や求愛行動の高度化に先立って、糖の味検出能の獲得や消化酵素(ラクターゼ)の機能低下が生じた。 (Current Biology掲載図より改変。鳥類イラスト:Lynx Nature Books/Cornell Lab of Ornithology; N. chrysocephalumおよびM. vitellinus© Kristen Orr) 。

社会的インパクト

本研究は、食性とそれを支える生理機能、さらには行動の進化の関連を統合的に示したものであり、生物多様性の創出過程の理解に寄与すると期待されます。

今後の展開

マイコドリのユニークな生態は、長年にわたり世界中の多くの研究者の関心を引きつけてきました。そのため、これまでにも行動、生理、形態など多様な観点から研究が行われてきましたが、本研究はそれらをゲノムレベルで結びつける新たな枠組みを提示するものです。今後は、こうした統合的アプローチを他の鳥類や脊椎動物へと拡張することで、食性や感覚(味覚など)・消化といった生理機能の進化が、行動や繁殖戦略の進化をどのように導くのかという一般原理の解明につながると期待されます。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP18KK0166、 JP20H02941、JP22KK0079、JP23H02168、JP25H01362)、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR220C)、ロッテ財団研究者育成助成および明治大学国際共同研究プロジェクト支援事業の助成を受けて実施されました。
[1] Baldwin#, Toda# et al., Science 345:929-933 (2014). DOI: 10.1126/science.1255097(#共筆頭著者)
[2] Toda et al., Science 373:226-231 (2021). DOI:10.1126/science.abf6505
[3] Cramer et al., Curr Biol 32:4270-4278 (2022). DOI: 10.1016/j.cub.2022.07.059

用語説明

  • 用語1 味覚受容体T1R:脊椎動物において、旨味と甘味はGタンパク質共役型受容体であるT1R受容体で受け取られる。哺乳類はT1R1、T1R2、T1R3の3種類の遺伝子を有しており、T1R1とT1R3の組み合わせ(T1R1/T1R3)で旨味受容体を、T1R2とT1R3の組み合わせ(T1R2/T1R3)で甘味受容体を構成している。一方、肉食恐竜を祖先とする鳥類では甘味受容体を構成するT1R2の遺伝子を失っており、甘味受容体T1R2/T1R3を持たない。
  • 用語2 正の選択:ある遺伝子や形質が、生存や繁殖に有利にはたらくことで、その変異が集団内で広まり増加する現象。

論文情報

掲載誌

Current Biology

論文タイトル

Genomic and physiological changes in a sexually selected and frugivorous bird radiation

著者

Christopher N. Balakrishnan*,#, Yasuka Toda*,#, Meng-Ching Ko#, Morgan E. Wirthlin#, Robert J. Driver#, Peri E. Bolton#, Eliot T. Miller#, Daniel Mendez-Aranda#, Rebecca B. Dikow, Paul B. Frandsen, Elsie H. Shogren, Kevin F. P. Bennett, H. Luke Anderson, Madeline G. Bursell, Julia F. Cramer, Keren R. Sadanandan, Tomoya Nakagita, Marco A. Pizo, Daniel S. Caetano, Marina Anciaes, Carolina F. Ferreira, Jacob S. Berv, Kira M. Long, Haw Chuan Lim, Andre E. Moncrieff, Sarah E. Kingston, Noor D. White Carreiro, Samantha R. Friedrich, Camilo Alfonso Cuta, James B. Pease, Alexander A. Nevue, Chad Tomlinson, Aleksey Zimin, Matthew I. M. Louder, Michael S. Brewer, Rachael A. Bay, Kristen Ruegg, Thomas B. Smith, Yoshiro Ishimaru, Andreas R. Pfenning, Carolina Frankl-Vilches, Manfred Gahr, Claudio V. Mello, Rebecca T. Kimball, Edward L. Braun, John G. Blake, Lainy B. Day, T. Brandt Ryder, Ignacio T. Moore, Brent M. Horton, Barney A. Schlinger, Matthew J. Fuxjager, Wesley C. Warren, Emily H. DuVal, W. Alice Boyle, Bette A. Loiselle, Michael J. Braun, Maude W. Baldwin*(#共筆頭著者、*共責任著者)

DOI

研究者プロフィール

戸田 安香(トダ ヤスカ) Yasuka Toda
東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授
明治大学 客員研究員
研究分野:食品科学、分子生物学

石丸 喜朗(イシマル ヨシロウ) Yoshiro Ishimaru
明治大学 農学部 農芸化学科 教授
研究分野:食品科学、分子生物学
お問い合わせ先

研究に関すること

東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授
戸田 安香
Email:toda.y.e867@m.isct.ac.jp
TEL:045-924-5768 
FAX:045-924-5768

明治大学 農学部 農芸化学科 教授
石丸 喜朗
Email:yishimaru@meiji.ac.jp

報道取材申し込み先

東京科学大学 総務企画部 広報課
取材申し込みページ:https://www.isct.ac.jp/ja/001/media
Email:media@adm.isct.ac.jp
TEL:03-5734-2975 
FAX:03-5734-3661

明治大学 経営企画部 広報課
TEL:03-3296-4082
FAX:03-3296-4087
MAIL:koho@mics.meiji.ac.jp
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