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明治大学総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 専任講師 五十嵐 悠紀

研究も育児も。あきらめずに楽しむために未来図を想像してみよう。

【CGとぬいぐるみ-研究内容とその魅力-】
専門分野はコンピュータグラフィックス(CG)やユーザインターフェースという分野です。その中でも私が行っているのはCGを使うことで、従来専門家しかできなかったような設計や製作を支援し、初心者でも携われるような研究をしています。具体的には、マウス等でぬいぐるみの外形スケッチするようにデザインすると、システムが型紙を自動生成し、物理シュミレーションを適用して縫った3次元形状を表示するシステムを研究開発しました。このシステムを使えば、プロでなくとも、初心者が自分でコンピューターでデザインして、簡単にものづくりが出来ますし、イベント会場にいるような大きなぬいぐるみも制作が可能になります。

【理系分野に進んだきっかけ】
大学の専攻を情報科学科に決めたのは、高校2年生のときにいった大学のオープンキャンパスでした。数学や物理が好きだったので理学部に行き数学科と物理学科を見たところ、数学科の模擬授業は哲学に近く、証明がメインのような印象を受けました。物理学科にも興味を持ったのですが、同じ理学部ということで情報学科にも行ってみたら、まさに数学も物理も活かせる内容で、私自身コンピュータも大好きだったので、それ以来、情報科学科志望になりました。進学には父の影響も大きいと思います。父は自動車会社でCADシステムの設計に携わっており、週末になると家にコンピュータを持ち帰って仕事をしていたので、時々触らせてもらっていました。大学のあとに大学院があること、修士課程の他に博士課程もあることなどは小学生の頃から聞かされていました。また、「迷った時には選択肢が広いほうを選びなさい」と常に言われていました。そんな父の影響か、高校の文理選択では、理系を選択しておけば、いざとなったら文系にはいけるのではと思い迷わず理系を選択しました。それこそ手芸もすごく好きだったので、被服分野も興味はありましたが、理系にいたからこそこういう形で手芸にも関わることができているのだと思います。

【研究者への歩み-身近なロールモデルの存在-】
お茶の水女子大学在学中には、同じ研究室に修士課程、博士課程の先輩だけでなく、企業の研究所で働く先輩や、平日は会社で働きながら土日だけ研究室に来て研究されている社会人ドクターの先輩、まだ小さなお子さんを抱えながら博士論文を書いている先輩など、まさにたくさんのロールモデルを見ることができました。また、学部時代の恩師の奥様も研究者で、ゼミ発表会の際には来てくださり、研究のアドバイスや子育てと研究の両立の話などもしてくださいました。自分にとって5年後の未来をイメージできる世代の先輩と、さらに先の、教授の世代、と異なる世代のロールモデルが身近にいたことはとてもよかったように思います。よく、理系女子の大学院進学に親が否定的な意見を述べることで自身も不安になり進学を断念する女子が多いと聞きます。そういった意味でも、私の口を通して聞く、女性の先輩たちの姿に、私の両親も安心していたのではないでしょうか。特に博士課程にはもともと興味があり、中学3年生には夏休みの宿題で作った自分史の未来の部分には27歳まで学生、30歳までに子供を2人産むと書いていました。在学中に両方とも実現している先輩たちを見ていたからこそ、私自身も博士課程在学中に第1子を産む決心ができました。こうして振り返ってみると、自分の未来を計画してみる機会があったことは面白い体験だったなと思います。

【ワーク・ライフ・バランスについて】
現在、小学校1年生、幼稚園年少、9か月の3人の子どもを育てています。小学生はだいぶ手がかからなくなってきて、朝支度をして玄関先で送るだけです。保育園は私が、幼稚園は夫が送っていきます。幼稚園はお弁当なのが大変ですが、お弁当もできる方が作ります。家事分担は決めていませんが、どちらが担当とか「手伝う」とか「協力する」といった思いはあまりなく、自分がふたりいるような感じで毎日の家事をこなしています。子供がお手伝いをできるように食器は届くところにしまっておくなど、危なくないような工夫をしておくことで、上2人がよく手伝ってくれています。また、近所のママ友の繋がりもたくさんできて、助けてもらっています。普段工夫していることといえば「今出来ることは後回しにしない」ということ。メールの返信や、子供の学校の用意すべきものだったり、TO DOリストはすぐできるものはすぐやるようにしています。他には家庭の中では私だけしかわからないことを作らないように心掛けています。例えば、幼稚園や小学校からの配布物はすべてファイリングして子ども別に棚に並べてあり、何か分からないことがあったら父親でもおばあちゃんでもそれを見たら時系列に並んでいるようになっています。

【研究者を目指す学生さんへのメッセージ】
勉強も大事ですが、好きなことをのばすことも大事だと思います。料理や手芸が好きだったらそれをのばしていく。一方で苦手なものを嫌いにしないことも大事。苦手だからやらないのではなくて、苦手なものを「普通」くらいに底上げしておくと、あとで本当に必要になったときに、世界が広がると思います。研究者か就職かという選択肢は難しいですが、世の中にないものを考えて実験してという「何もないところから何かを作ることが好き」なのであれば研究者に向いていると思います。企業も魅力的な研究をしていますし、開発だったり営業だったり、修士号博士号を活かせる場はさまざまだと思います。私にはこれしか向いていないと思わないで、いろんなことに挑戦してみると良いと思います。そのためにはインターンシップでいろんな業種に触れてみたり、研究者になりたかったら大学にいる間に大学の先生をつかまえていろんな話をぜひ聞いてみたりしてください。一人に聞いただけではその人の人生ですが、10人に聞いたら10人から違う答えが返ってきます。「私のロールモデルはこの人」と決めるのではなくて、ロールモデルはたくさんいて良いと思います。この人のここやこの人のここ、といろんな角度からたくさんの人を見て、私はこういう人になりたいな、という理想像を思い描いています。

【女性研究者研究活動支援事業に望むこと】
他大学での女性研究者支援活動を調査していて、いいなと思ったのは、急遽子どもが熱を出した、となったときにあらかじめ登録してある先生に代替授業をしてもらう、という制度です。大学も急に他の先生が授業するというのは困ると思いますが、学期が始まる前に2人くらい緊急時に授業を代替できる研究者というのを登録しておき、急きょ代替してもらうのだそうです。学生さんにとっても補講になるよりもいつもと違う先生から違う角度で最先端の話を聞けるチャンスになり、魅力的な制度だと思うので是非、明治大学でも実現していただけたらありがたいです。

※本ページ記載の役職は作成日現在のものです。