Go Forward

Ludwig-MaximiliansUniversity 研究員 黒目 麻由子

これだと思えたことに全力でぶつかってください。その先にはきっと何かが見えてくるから。

【研究の内容と魅力・おもしろさ】
医療研究への応用に向けた遺伝子改変動物の作出を行っています。特に大型動物であるブタを用いてその作出を行っており、仕事は様々な専門分野の方々との連携にて行っています。その中で、自分は発生工学の専門として様々なプロジェクトに参加しています。治療法が確立していない難病の研究に用いる病態モデルの作出、また、抗体を始めとする有用物質を生産する遺伝子改変ブタの開発など、自分の携わっている研究が実際、どのような形で社会に貢献しているのか具体的にイメージできることがこの研究に携わっている魅力であり、やりがいでもあります。また、これら遺伝子改変技術が進歩した現在においても、その作出効率を考えると、まだまだ沢山の疑問があります。それらに対し、仮説を立てて証明していくその過程は、何とも言えない面白さがあります。正直、上手く行かないケースが多いのですが、その状況を打破し、最終的に、仮説の立証、もしくは新しい知見が得られたときの喜びはこの仕事をやっている醍醐味ではないかと思います。

【専門の分野に進んだきっかけ】
学部時代、自分の進路において明確なイメージはありませんでした。自分が打ち込める何かが仕事につながればいいなとは思っていたものの、その対象が何なのかは漠然としていました。そんな頃、向かえた研究室入室。初めて知る研究という世界に、純粋に“おもしろい”と感じました。もともと獣医志望であったということもあり、動物に関わる仕事、そして研究テーマが医療領域であったことも、興味が持てた理由かもしれません。研究室では、目の前にあるやるべき課題に全力で取り組みました。正直、その継続が今に至っていると言っても過言ではありません。これまで、何度か人生の岐路に立つことがありましたが、改めて今考えてみると、最後は理屈ではなく“直感”で選択してきたように思います。そしてその決断は、今でも後悔してません。

【海外での研究活動を通じて得たことや感じたこと】
実験で得られた結果はそれらを発信して初めて研究の意味を持ちます。その発信手段でもあるプレゼンテーションやミーティングなどのあり方に刺激を受けました。まず、語学。基本はすべて英語で行われます。英語が母国語でないことは、日本と同じですが、研究員に限らず、学生も技術員も皆、英語が堪能です。グローバルな視点から考えると、とても重要なことだと思います。そして、研究に対する議論も活発です。自分が出した結論が客観的に評価されるためには、第三者の意見は非常に重要になります。特に、今の研究室は、様々な専門分野を背景とした人達によって構成されているため、多角的な意見が聞けるので、いろいろと勉強になっています。また、生活面においては、自分が日本人であることをより意識するようになりました。この感覚は日本に居た時はありませんでした。日本の良い部分悪い部分など、日本について客観的に考える機会が増えたように思います。ちなみに、日本で常識とされることは、世界どこでも通じるのではないかと思っています。

【海外における女性研究者の環境やキャリアについて】
現職場の環境における男女差を感じたことはありません。むしろ、その人自身の評価、つまり各立場において期待されている結果を出せる人が仕事を任されているように思います。研究室のメンバーは、半数以上が女性で構成されています。いろんな意味で強く、自分を持っているかっこいい女性ばかりです。ただ、女性にとって、出産、子育ては、生活が変わらざるを得ないという意味で仕事の転機になることがあるかと思います。興味深いことに、近年、男性も育児休暇を取るケースが、ドイツでも珍しくないようです。実際、私が一緒に仕事している男性研究者も育児休暇のため半年、職場を離れます。その背景には、パートナー同士が同等の割合で働いている現状が考えられます。また、育児休暇から仕事に戻った後のあり方も興味深いです。現研究室を例に挙げると、希望するキャリアプランに合わせて、どのぐらいの配分で仕事に復帰したいか、話し合いで決めているそうです。つまり、キャリアアップを目指している人は、育児休暇後すぐに高い配分で仕事に戻っていますし、育児に重きを置きたい人は5-6割の配分で仕事を始めているようです。とは言え、いずれのケースにおいても、育児をしながらの仕事はどうしても時間に制限がでてしまうので、技術員、もしくは博士課程の学生が専属にサポートし、彼女が研究室に来ることができない場合でも、研究が動く体制になっています。女性研究者の出産後のキャリアには、国からの経済的サポート、そして職場での理解が必須だと思います。

【仕事と私生活のバランスについて】
年齢と共に、自分が求めるものは変わるものだと思います。学生時代、自分の可能性に挑戦する意味も含め、自分の時間を全て研究に投資してきました。しかし30代の今、自分にとってプライベートは、仕事と同等に大切な要素であります。できるだけ仕事にオンオフをつけるようにして、オフの時間で気持ちをリフレッシュするようにしています。この心境の変化は多分に、プライベートを大事にするヨーロッパ特有の文化に影響を受けている所もあるかもしれません。職場の雰囲気も、朝早くに仕事を始め、まだ日のあるうちに仕事を終わらせる人が多いです。事実、本当に仕事に集中できる時間というのは限られているものであって、その限られた時間の中で集中し、結果を出すという仕事の姿勢はスマートだと思います。同じ研究者といっても、十人十色。いろんな形での研究者がいます。自分が具体的にどんなライフスタイルを過ごしたいのかイメージするには、様々な“ロールモデル”を直に見ることが近道です。自分にとって“Quality of life”とは何なのか、人生のヒントが得られると思います。

【学生の皆さんへのメッセージ】
学生の皆さんがいる“今”という時間は、人生の中において最も影響を与える時だと思います。興味を持てる何かを見つけ、それに全力で取り組んでみてください。その先にはきっと、何かが見えてくるはずです。その時、“情熱”をもって取り組むことも、重要な要素かと思います。困ったときに、必ず回りの人々が手を差し伸べてくれます。また、底知れぬパワーからくる無謀なチャレンジも若さ故の特権だと思います。失敗を恐れないでいろんなことにチャレンジしてください。完璧を求めず、3割出来れば上出来という心構えでいくと、気持ちも楽にいけます。あと、人生必ず誰にもチャンスが訪れるものです。その突然訪れるチャンスを生かせる実力をつけておこうという“意識”を持つことも人生をスマートにするポイントかもしれません(今思うと、あの時こうしておけば良かったと反省することが多々あるので…)。自分自身、納得するまでやり遂げることが大事です。たとえどんな結果になろうと、その決断に後悔することはないと思います。自分自身の可能性を信じ、頑張ってください。応援しています!!

※本ページ記載の役職は作成日現在のものです。