明治大学農学部 瀬戸義哉専任講師ら共同研究により 植物の枝分かれ制御ホルモン「ストリゴラクトン」の受容メカニズムを解明 ~受容体タンパクがストリゴラクトンの受容と不活性化を担うことを発見~
2019年01月15日
明治大学
明治大学農学部 瀬戸義哉専任講師ら共同研究により
植物の枝分かれ制御ホルモン「ストリゴラクトン」の
受容メカニズムを解明
~受容体タンパクがストリゴラクトンの受容と不活性化を担うことを発見~
植物の枝分かれ制御ホルモン「ストリゴラクトン」の
受容メカニズムを解明
~受容体タンパクがストリゴラクトンの受容と不活性化を担うことを発見~
要旨
- 明治大学農学部の瀬戸義哉専任講師(元東北大学生命科学研究科助教)は東北大学大学院生命科学研究科の山口信次郎客員教授(現京都大学化学研究所・教授)と博士課程学生の安井令らとの共同研究で、植物の枝分かれ制御ホルモン「ストリゴラクトン」の受容メカニズムを解明することに成功しました。
- この成果は、ストリゴラクトンの受容メカニズムに基づいた新たな枝分かれ制御法の開発などにつながることが期待されます。枝分かれは最終的な花や種子の数と質に影響を与えることから、枝分かれの制御を通じて、作物の増収やバイオマスの増産などが期待されます。
- 本研究成果は、2019年1月14日午後7時に英国科学誌Nature Communicationsに掲載されました。
概要
これまでに、ストリゴラクトンが植物ホルモンとして働く際には、DWARF14(以下D14)タンパク質が受容体として働くことが分かっていました。D14は、ホルモン受容体には珍しく、加水分解酵素ファミリー※2に属しており、実際にストリゴラクトンを分解することが出来ます。しかしながら、D14によるストリゴラクトンの分解と、ホルモン信号伝達の関係性は十分に解明されていませんでした。山口教授らは、D14とストリゴラクトンの詳細な相互作用解析や、分解反応に必要なD14のアミノ酸残基を置換した変異型D14を利用した研究により、『D14はストリゴラクトン分子そのものを認識して信号を伝達し、その後ストリゴラクトンを分解して不活性化する』ことを突き止めました(図2A)。 この成果は、ストリゴラクトンの受容メカニズムに基づいた、新たな枝分かれ制御法の開発などにつながることが期待されます。枝分かれは最終的な花や種子の数と質に影響を与えることから、枝分かれの制御を通じて、作物の増収やバイオマスの増産などが期待されます。本研究成果は、2019年1月14日午後7時に英国科学誌Nature Communicationsに掲載されました。
研究の背景
研究手法と成果
次に研究グループは、シロイヌナズナのD14を利用し、加水分解反応を触媒するために必要なアミノ酸残基に点変異を導入した変異導入型D14を複数作製し、その機能解析を行いました。その結果、全ての変異体タンパク質において、酵素機能の著しい低下が見られたのに対し、興味深いことに、そのうちの一つであるD218A変異体はシロイヌナズナのd14変異体植物の枝分かれ過剰な表現型を完全に相補することが分かりました(図4)。すなわち、この変異体においては酵素機能が消失したにもかかわらず、ストリゴラクトンを受容して信号を伝達する能力は保持していたということが出来ます。以上の結果から、D14によるストリゴラクトンの分解は、ホルモン信号を伝達するためには必須ではないということが明らかとなりました。
また、D14はストリゴラクトンを分解することにより、信号を伝達し終わった分子を速やかに活性のない状態に代謝していることも見出しました。つまり、D14によるストリゴラクトンの分解は、信号を伝達して不要になったホルモン分子の不活性化のためであったということが出来ます。
今後の期待
用語説明
※2 加水分解酵素:基質分子に水を付加することで、分解する酵素ファミリー。反応を触媒するために、セリン、ヒスチジン、アスパラギン酸の三つのアミノ酸が協調的に働くことが必要であり、これらの三つのアミノ酸は、触媒三つ組み残基(catalytic triad)と呼ばれている。
※3 菌根菌:菌根を作って植物と共生する菌類のこと。土壌中の糸状菌が、植物の根の表面または内部に着生したものを菌根という。菌根菌は、植物に着生後、土壌中に菌糸を張り巡らし、主にリン酸や窒素を吸収して宿主植物に供給する。代わりにエネルギー源として、植物が光合成により生産した糖などの炭素化合物を得る。そのため、植物は菌根菌と共生することにより、栄養分の乏しい土地での育ちが改善される。
※4 根寄生雑草ストライガ:別名「ウィッチウィード」(魔女草)とも呼ばれる根寄生性雑草。植物から分泌されるストリゴラクトンを認識して発芽して、近くの植物の根に寄生し、宿主植物から栄養を吸収する。ストリゴラクトンがなければ発芽できず、種子の状態で何年も休眠したまま生存し続ける。ストライガに寄生された植物は著しく生育が抑制される。特にアフリカでは、ソルガムやトウモロコシなどの農作物における被害が大きく、ストライガの撃退は食糧生産上、重要な課題となっている。ストライガは主に単子葉植物に寄生するが、双子葉植物に対する寄生雑草としてはオロバンキ(ヤセウツボ)が知られている。
※5 DSF法:タンパク質の熱変性温度を測定する手法。タンパク質サンプルに、変性したタンパク質と結合して蛍光を発する試薬を混ぜておき、徐々に熱をかけながら蛍光を測定することで、タンパク質の熱変性温度を測定することが出来る。グラフにおけるピークの頂点に相当する温度が、熱変性温度に相当する。
参考図
図1 ストリゴラクトンの化学構造。従来から良く知られるストリゴラクトン類は、ABC環とD環が連結した構造を有する。
図2 今回新たに提唱したD14によるストリゴラクトン信号伝達メカニズムのモデル図(A)とこれまでに提唱されていたメカニズムのモデル図(B)。
図3 D14によるストリゴラクトンの加水分解の継時的な解析(左)と、DSF法によるD14の熱変性温度変化の継時的な解析(右)の比較。
図4 加水分解能が劇的に低下した点変異導入AtD14(AtD14D218A)によるシロイヌナズナd14変異体の表現型の相補。
論文情報
著者:Yoshiya Seto*†, Rei Yasui*, Hiromu Kameoka, Muluneh Tamiru, Mengmeng Cao, Ryohei Terauchi, Akane Sakurada, Rena Hirano, Takaya Kisugi, Atsushi Hanada, Mikihisa Umehara, Eunjoo Seo, Kohki Akiyama, Jason Burke, Noriko Takeda-Kamiya, Weiqiang Li, Yoshinori Hirano, Toshio Hakoshima, Kiyoshi Mashiguchi, Joseph P. Noel, Junko Kyozuka, Shinjiro Yamaguchi† (*共筆頭著者、†共責任著者)
雑誌:Nature Communications. in press
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本件に関するお問い合わせ
明治大学 広報課
TEL: 03-3296-4082Email:koho@meiji.ac.jp
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明治大学農学部農芸化学科(担当:専任講師 瀬戸 義哉)
TEL:044-934-7100
Email:yoshiya@meiji.ac.jp
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京都大学化学研究所(担当:教授 山口 信次郎(東北大学生命科学研究科客員教授))
TEL:0774-38-3231
Email:shinjiro@scl.kyoto-u.ac.jp