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プレスリリース

条件的根寄生雑草コシオガマにおける高感度ストリゴラクトン受容体を発見 ~根寄生雑草による宿主植物認識メカニズムの解明に向けた新たな一歩~ 明治大学農学部 瀬戸義哉准教授らの研究グループ

2024年11月01日
明治大学

 条件的根寄生雑草コシオガマにおける高感度ストリゴラクトン受容体を発見
~根寄生雑草による宿主植物認識メカニズムの解明に向けた新たな一歩~
明治大学農学部 瀬戸義哉准教授らの研究グループ

要旨

  • 明治大学農学部の瀬戸義哉准教授、竹井沙織(同大学農学研究科博士前期課程修了生)、大谷真彦(同大学博士研究員)、石川智也(同大学農学部4年)、西山康太郎(同大学助教)らの研究グループは、根寄生雑草の一種であるコシオガマが高感度に宿主植物を認識するために必要な受容体を有していることを発見しました。
  • コシオガマは栄養が欠乏した際に、宿主に向かって根を伸ばし、寄生することが知られています。今回、コシオガマが宿主を認識する際に機能すると考えられる受容体タンパク質機能を明らかにすることに成功しました。
  • 本成果は、2024年9月13日に日本植物生理学会が発行している国際学術誌Plant & Cell Physiologyに公開されました。

概要

根寄生雑草はトウモロコシやソルガム、陸稲などの主要作物にも寄生し、寄生した相手である宿主植物から水や栄養を奪って生活します。これら根寄生雑草の中でも絶対寄生植物注1は、何か別の植物に寄生しないと生存できないため、寄生する相手が近くに存在するときにのみ発芽するという特殊なシステムを有しています。この際、KAI2dと呼ばれるファミリーの受容体タンパク質を使って、寄生する相手の根から分泌される植物ホルモン注2であるストリゴラクトン(以下SL)を認識して発芽します。一方、条件的寄生植物注3であるコシオガマ(図1)は、寄生せずに生育することが可能であり、絶対寄生性の植物のように発芽にSLを必要としないことが知られています。興味深いことに、条件的寄生植物であるコシオガマにおいても、絶対寄生性の根寄生植物と同じようにKAI2dファミリーの受容体と思われる遺伝子を有することが分かっていましたが、これらの受容体の詳細な機能については、ほとんど分かっていませんでした。この度、コシオガマにおけるKAI2dの機能を詳細に解析したところ、これらのうちの一つが極めて高い感度でSLを認識可能な受容体であることを発見しました。つまり、発芽にSLを必要としない植物も、SLを高感度に認識するシステムを有していることが明らかになりました。本研究成果は、2024年9月13日に国際誌Plant & Cell Physiologyにオンライン公開されました。

本研究は、JST創発的研究支援事業(JPMJFR211S、植物病原菌が生産するストリゴラクトン様活性分子の探索、研究代表者:瀬戸義哉)、JSPS科研費(19K05852、22H02276)の助成を受けて実施されました。

研究の背景

根寄生雑草は、他の植物の根に寄生し、水や養分を寄生した相手から奪いとって生育します。農業被害の報告はないものの、日本においてもヤセウツボという名前の根寄生雑草が観測されています。根寄生雑草の種子は独自の発芽システムを持っており、寄生する相手、すなわち宿主の根から分泌されるSLを感知することで発芽します。これは、宿主に寄生することなくして生育できない根寄生雑草において、極めて重要な生存戦略であると考えられます。これまで根寄生雑草においては、SL受容体として、KAI2dと名付けられた加水分解酵素ファミリータンパク質が同定されてきました。これらの受容体は、発芽にSLを必要とする根寄生植物において、低濃度のSLを感知して発芽するために重要な役割を担っていると考えられます。一方で、条件的根寄生植物であるコシオガマは、ヤセウツボなどの絶対寄生性の植物とは異なり、寄生せずに単独で生育することも可能であり、発芽にSLを必要としないことが知られています(図1)。しかしながら、コシオガマにおいてもKAI2dファミリータンパク質が存在することが報告されており、その機能に関してはほとんど明らかになっていませんでした(図1)。これらの受容体が絶対寄生性の根寄生植物におけるSL受容体と同様に、SL受容体としての機能を有しているのかどうか、また、もしSL受容能を有する場合、その受容体はどういった時にSLを認識して機能するのか、といった点に興味がもたれます。

研究手法と成果

本研究グループは、コシオガマ(Phtheirospermum japonicum)において見つかっている5つのKAI2d遺伝子に着目し(PjKAi2d1-PjKAI2d5)、まずは、それらがコードするタンパク質がSL受容能を有しているか否かを調べました。実験手法としては、タンパク質の変性温度の変化を指標に低分子化合物との相互作用を評価可能なDifferential Scanning Fluorimetry(DSF)法を用いました。その結果、5つのうち少なくともPjKAI2d1, PjKAI2d4, PjKAI2d5に関しては、合成SLの一種であるrac-GR24依存的に変性温度が低下する現象が見られたことから、コシオガマのKAI2dはSLとの相互作用能を有することが明らかになりました(図2)。また、KAI2dファミリー受容体は、加水分解酵素ファミリーに属しており、既知のSL受容体は、SLに対する加水分解能を有することが知られていますが、PjKAI2d1-PjKAI2d5に関しても、蛍光性SLアナログであるヨシムラクトングリーン(YLG)に対する加水分解能を有していることが明らかになりました。

さらに本研究グループは、これらPjKAI2dが生体内においてもSL受容能を有するか否かを明らかにするために、シロイヌナズナにおいて、それぞれのPjKAI2dを発現させた組み換え体植物を作成しました。シロイヌナズナの発芽は30℃を超える高温条件では顕著に阻害されますが、SL添加によって高温による発芽阻害を回復できることが知られています。本実験系を用いて、PjKAI2dを導入した組み換え体を解析したところ、PjKAI2d1PjKAI2d4PjKAI2d5を導入した組み換え体種子においては、高温発芽阻害がrac-GR24の添加によって回復しました。さらに、PjKAI2d4を導入した種子においては、ピコモーラー(pM)レベルの非常に薄い濃度のSL添加によって高温発芽阻害の回復が見られたことから、本受容体は非常に高いSL感受性を有することが分かりました(図3)。この感受性は、本研究グループが、絶対寄生性根寄生雑草であるヤセウツボで同定したOmKAI2d3や、同じく絶対寄生性であるストライガから見つかっていたShHTL7が有する感受性と同程度でした(図3)。すなわち、SLを発芽に必要としないも、高感度にSLを受容する仕組みを有していることが初めて明らかになりました。

続いて、PjKAI2dによってSLが受容されることの生理学的な意味を明らかにするために、コシオガマの種子を用いた発芽実験を行いました。シロイヌナズナにおいては、一般的な発芽誘導ホルモンであるジベレリンの機能を抑制した際には、SLの添加によって発芽を誘導することが出来ることが知られています。そこで、本研究グループは、ジベレリンの生合成阻害剤をコシオガマに投与し、その際に見られる発芽阻害をSLによって回復できるか否かを調べました。その結果、予想に反して、ジベレリンの投与による発芽の回復は見られたものの、SL添加による発芽の回復は見られませんでした。このことから、コシオガマにおいてPjKAI2dは、発芽ではない別のプロセスにおいてSLの認識に関わっていることが予想されます。

今後の期待

今回の研究では、条件的根寄生雑草であるコシオガマにおいても、KAI2dファミリー受容体が高感度にSLを受容する能力を有していることが明らかになりました。SLを発芽に必要としない植物においても高感度にSLを認識する受容体が機能しているということは、根寄生雑草におけるKAI2dの機能は、発芽以外のステップにおいても重要な役割があることを示唆する重要な発見です。近年の研究において、コシオガマは、栄養が欠乏した条件では、その根を宿主に向けて屈曲させることに加え、その屈曲はSLによって誘導されることが報告されています。また、その際には、KAI2dの遺伝子発現誘導が起こることも明らかになっています。今回の研究成果と合わせて考察すると、コシオガマにおいては、KAI2d受容体を用いて、宿主由来のSLを認識することで、宿主に向かって根を屈曲させて伸長するというメカニズムが予想できます。すなわち、KAI2d受容体は、根寄生雑草において、SL依存的な発芽、だけではなく、SLに応答した屈曲という複数の現象において重要な役割を担っていると考えられます。かつ、両方の現象において、宿主から分泌される、低濃度のSLを認識するために、極めて高いリガンド感受性を有していると考えられます。現在に至るまで、この高いリガンド感受性を生み出す生化学的な要因についてはほとんど明らかになっていませんが、高感受性の受容体として新たにPjKAI2d4が見つかったことから、これまで見つかってきた高感受性の受容体と、低感受性の受容体のアミノ酸配列の比較等を通じてそのメカニズムが明らかになることが期待されます。さらには、それらの解析を通じて、根寄生雑草による被害を効果的に防除する方法が構築されることも期待されます。

用語説明

  • 注1 絶対寄生植物
寄生植物の中で、何かの植物に寄生することなくしては生育することができない植物。光合成能力も失った「絶対全寄生性」の植物と、光合成能力は保持している「絶対半寄生性」の植物に分けられる(図1)。

  • 注2 植物ホルモン
植物の成長を制御する化学物質の総称。一般的に植物ホルモンは、植物でごくわずかしか作られない。これまでに、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、 エチレン、ジャスモン酸、アブシジン酸、ブラシノステロイド、ストリゴラクトン、サリチル酸に加え、幾つかのペプチドホルモンなどが発見されている。

  • 注3 条件的寄生性植物
寄生植物の中で宿主がいなくても独立して生きられるが、宿主が近くにいると寄生して水や栄養分を吸収する植物(図1)。

参考図



論文情報

題目

Highly sensitive strigolactone perception by a divergent clade KAI2 receptor in a facultative root parasitic plant, Phtheirospermum japonicum

著者

Saori Takei, Masahiko Ohtani, Tomoya Ishikawa, Taiki Suzuki, Shoma Okabe, Kotaro Nishiyama, Naoto Kawakami, and Yoshiya Seto

雑誌

Plant & Cell Physiology

DOI

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

明治大学 農学部農芸化学科 准教授 瀬戸義哉
TEL:044-934-7100
MAIL:yoshiya@meiji.ac.jp

取材に関するお問い合わせ

明治大学 経営企画部 広報課
TEL:03-3296-4082
MAIL:koho@mics.meiji.ac.jp
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