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プレスリリース

~低炭素社会実現の“カギ”はラン藻に~ 明治大学農学部環境バイオテクノロジー研究室が モデルラン藻が持つ酸素呼吸の鍵酵素が 型破りな活性調節を受けることを明らかにしました

2019年04月15日
明治大学

 ~低炭素社会実現の“カギ”はラン藻に~
明治大学農学部環境バイオテクノロジー研究室が
モデルラン藻が持つ酸素呼吸の鍵酵素が
型破りな活性調節を受けることを明らかにしました
低炭素社会実現に向け、カーボンフリーなバイオプラスチックやバイオ燃料が注目を集めている中、明治大学大学院農学研究科環境バイオテクノロジー研究室の小山内崇(准教授)、伊東昇紀(博士前期課程2年)らの研究グループは、モデルラン藻として世界中で広く研究されているのが、シネコシスティス( Synechocystis sp. PCC 6803)に着目し、以下の性質があることを明らかにしました。

○世界中で広く研究されているラン藻であるシネコシスティスのクエン酸シンターゼという酵素が、他の細菌のクエン酸シンターゼとはかけ離れた性質を持つことを明らかにした。
○シネコシスティスのクエン酸シンターゼの働きは、多くの細菌のクエン酸シンターゼの働きを下げる塩化マグネシウムと塩化カルシウムの存在下で、活発になることが分かった。
○他の細菌のクエン酸シンターゼと異なり、シネコシスティスのクエン酸シンターゼの働きは、ホスホエノールピルビン酸とADPという2つの代謝物質によって調節されることが分かった。

要旨

酸素発生型の光合成を行うラン藻という細菌は、固定した二酸化炭素から様々な有用物質を生産することができます。シネコシスティス 注1)というラン藻は、遺伝子改変が容易で、凍結保存が可能であるなどの利点から、基礎・応用の両分野において、世界中で研究されています。特に、遺伝子研究や物質生産に関する研究は盛んに行われていますが、代謝のしくみに関する基礎研究は、まだまだ発展途上です。
クエン酸回路という代謝経路は、生育に必要不可欠なエネルギーを生み出す酸素呼吸の主要な経路です。クエン酸回路は、いくつもの反応とそれを担う酵素で成り立っています。中でもボトルネックとなっている反応を担う酵素が、クエン酸シンターゼ(CS)です。CSの基質となる代謝産物は、様々な有用物質の元となる化合物です。今回、私たちは、シネコシスティスのCS( SyCS)を精製し、生化学的性質を調べました。
その結果、 SyCSは、これまで報告されてきた細菌のCSとは異なるいくつかの性質を有することが分かりました。 SyCSは、他の細菌よりも活性が著しく低いことが分かりました。 SyCSは、一般的な細菌のCSの阻害剤である塩化マグネシウムと塩化カルシウムで活性化されました。また、 SyCSは、他の細菌のCSとは異なり、代謝産物であるADPによって活性化され、ホスホエノールピルビン酸によって阻害されることが分かりました。
このように、本研究では、酸素呼吸に重要なCSという酵素のこれまで報告されていないタイプを発見しました。
この研究は、明治大学大学院農学研究科 伊東 昇紀(博士前期課程1年)、小山内崇(准教授)らのグループによって行われました。この研究は、JST戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発ALCA(代表小山内崇)およびJSPS科研費新学術領域研究「新光合成」(領域代表基礎生物学研究所皆川純教授、計画班代表大阪大学清水浩教授)の援助により行われました。
本研究成果は、2019年4月15日発行の「 Scientific Reports」に掲載されました。
※研究グループ
明治大学 農学部農芸化学科 
環境バイオテクノロジー研究室
准教授 小山内 崇(おさない たかし)
博士前期課程2年生 伊東 昇紀(いとう しょうき)
元学部生(2018年度卒業) 小山 直人(こやま なおと)

1.背景

低炭素社会実現に向け、地球温暖化対策や非化石燃料の導入拡大が求められる近年、カーボンフリーなバイオプラスチックやバイオ燃料が注目を集めています。これらの有用物質の安定生産に向け、糖を炭素源として利用する生産性の高い大腸菌やコリネ菌を利用した物質生産に関する研究が世界中で進められています。そうした状況のなかで、私たちの研究グループは、光合成によって固定した二酸化炭素を炭素源として利用できるラン藻という細菌に注目しています。ラン藻は、培養に糖の添加が必要ないだけでなく、食料や土地との競合も少ないというメリットを持ちます。
ラン藻の中でも比較的取り扱い易く、モデルラン藻として世界中で広く研究されているのが、シネコシスティス( Synechocystis sp. PCC 6803)です。シネコシスティスは、全遺伝子情報が明らかになっているラン藻で、近年では、遺伝子改変を行ったシネコシスティスの有用物質生産に関する研究が盛んに行われています。しかしながら、物質生産に至るまでの代謝に関する基礎的な知見は、大腸菌やコリネ菌と比べて乏しく、さらなる物質生産に向けて代謝メカニズムの解明が求められています。
クエン酸回路は、酸素呼吸を行う生物全般が持つ代謝経路で、エネルギーを効率よく生産します。生きるために必要なエネルギーの生産を、このクエン酸回路のみで賄っている生物も存在します。クエン酸回路全体の反応速度に大きく寄与する最も遅い第一段階の反応を担う酵素が、クエン酸シンターゼ(CS)です。CSの基質であるアセチルCoAという代謝産物は、様々な有用物質の前駆物質です。
そこで、私たちは、シネコシスティスのCS( SyCS)の性質を調べ、他の細菌のCSの性質と比較しました。

2.研究手法と成果

研究グループは、組換え SyCSタンパク質を大腸菌で発現させて精製し、その特性を評価しました。その結果、 SyCSは、37℃、pH 7.5の条件で最も高い活性を示しました。 SyCSの酵素1分子当たりの活性は、現在報告されている他の細菌のCSと比べて、極めて低いことが分かりました。 SyCSの活性は、金属塩の添加によって変化しました(図1)。 SyCSは、多くの細菌のCSの活性化剤として報告されている塩化カリウム(KCl)と塩化ナトリウム(NaCl)よりも、阻害剤として報告されている塩化マグネシウム(MgCl 2)と塩化カルシウム(CaCl 2)によって顕著に活性化されました(図1)。100 mM 塩化マグネシウム(MgCl 2)と塩化カルシウム(CaCl 2)の存在下で、 SyCS の活性は、それぞれ1,463%と1,050%まで向上しました(図1)。一方、 SyCSは、塩化マンガン(MnCl 2)によって阻害されました(図1)。 SyCSの活性は、代謝産物の添加によって変化しました(図2)。 SyCSは、多くの細菌のCSの阻害剤であるADPによって顕著に活性化されました(図2)。5 mM ADP存在下で、 SyCS の活性は、369%まで向上しました(図2)。一方、他の細菌のCSと異なり、 SyCS は、クエン酸回路の代謝産物であるクエン酸と2-オキソグルタル酸だけでなく、解糖系の代謝産物であるホスホエノールピルビン酸によっても阻害されました(図2)。5 mM ホスホエノールピルビン酸存在下で、 SyCS の活性は、14%まで低下しました(図2)。また、細菌のCSのアミノ酸配列を比較した結果、 SyCSを含むラン藻のCSのアミノ酸配列は、他の細菌のCSのアミノ酸配列とは大きく異なっていました(図3)。 このように、 SyCSは、これまで報告されてきた細菌のCSとは異なる独自の性質を持つことが判明しました。

3.今後の期待

本研究グル-プは、世界で初めて、シネコシスティスのCSの性質を明らかにし、それがこれまでの細菌のCSとは異なることを発見しました。本研究成果は、細菌のCSの生化学的性質や系統進化の理解のみならず、代謝工学的手法を用いたシネコシスティスの有用物質生産においても大いに貢献することが予想されます。今後は、シネコシスティスがもつ代謝酵素の生化学的な解析をさらに進めることで、複雑な代謝ネットワークの解明とシネコシスティスを用いた有用物質生産の隆盛につながることが期待されます。

4.論文情報

<タイトル> Citrate synthase from Synechocystis is a distinct class of bacterial citrate synthase
(日本語タイトル  Synechocystisのクエン酸シンターゼは、異なる種類の細菌クエン酸シンターゼである)
<著者名> Shoki Ito, Naoto Koyama, Takashi Osanai
<雑誌> Scientific Reports
<DOI> 10.1038/s41598-019-42659-z

5.補足説明報

注1)シネコシスティス 最も広く研究されている淡水性、単細胞性のラン藻。増殖が速く、直径が約1.5マイクロメートルの球形をしている。窒素固定を行わない。1996年に、ラン藻種の中で最初に全ゲノム配列が決定された。相同組換えによる遺伝子の改変が可能であり、凍結保存が可能であるなどの利点を有する。









            図1. 100 mM 金属塩存在下の SyCS活性

縦軸は、酵素活性の相対値。塩化マグネシウム(MgCl 2)と塩化カルシウム(CaCl 2)存在下で、 SyCSの活性は、顕著に向上します。





              図2. 5 mM 代謝産物存在下の SyCS活性

縦軸は、酵素活性の相対値。ホスホエノールピルビン酸存在下で、 SyCSの活性は、低下します。ADP存在下で、 SyCSの活性は、向上します。





                図3. 細菌のCSの分子系統樹

細菌のCSのアミノ酸配列に基づいて作成した分子系統樹です。細菌のCSは、アミノ酸配列の違いで4つのグループに分かれます。
SyCSを含むラン藻のCSのアミノ酸配列は、独立したグループに分類されます。


お問い合わせ先

<発表者> ※研究内容については発表者にお問い合わせ下さい

明治大学農学部農芸化学科 環境バイオテクノロジー研究室
小山内 崇(おさない たかし)准教授
TEL:044-934-7103 
FAX:044-934-7103

<機関窓口>

明治大学 経営企画部 広報課
〒101-8301
東京都千代田区神田駿河台1-1
TEL:03-3296-4082 FAX:03-3296-4087
E-mail: koho@mics.meiji.ac.jp