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柳谷理事長・大六野学長 新春対談「創立140周年を迎えて」



あけましておめでとうございます。今回は新春対談として「創立140周年を迎えて」と題し柳谷孝理事長、大六野学長のお二人に年頭所感も含めてお話をお伺いしました。

2021年明治大学創立140周年

上野正雄副学長 あけましておめでとうございます。本日は「創立140周年を迎えて」と題して柳谷理事長、大六野学長のお二人に年頭所感も含めてお話をお伺いしたいと思います。初めに2021年を迎えた所感をそれぞれお聞かせください。



柳谷孝 理事長 あけましておめでとうございます。本年は明治法律学校が、岸本辰雄・宮城浩蔵・矢代操の3名の若き創立者によって、1881年1月17日に、当時の麹町区有楽町の一角に開校して、ちょうど140年目となる記念すべき年であります。開校当時の学生数はわずか44人、現在は約3万2000人ですので、まさに隔世の感があります。一方で「権利自由」「独立自治」という建学の精神は清冽な地下水として今日に至るまで脈々と受け継がれてきております。この建学の精神の下に、多様な「個」を磨き、自らの道を切り開いて「前へ」と進んでいくことこそ明大スピリットであります。こうした伝統を守りつつ、次代に向けて進化していきたい。新年に当たりそのように決意を新たにしているところであります。そして今後とも人類と地球環境の調和した未来を創造することに貢献できる有為な人材を広く社会に送り出すべく、教学と法人が一体となって取り組んでいくことで、2021年を大きな飛躍の年にしたいと考えています。
大六野 学長 あけましておめでとうございます。神保町駅近くの学士会館の前に、「東京大学発祥の地」の記念碑が建っているのですが、そこには、明治10年に我が国初の大学が創立された地であることが書いてあります。その官立大学発祥からわずか4年後に、3人の若い法学者が心を込めてつくりあげた私立学校が明治大学です。奇しくも創立140年目に当たるこの年に、日本は大きな危機的状況に直面しています。これから先の社会では環境問題や社会的格差などの困難を乗り越えていく知恵が必要になります。困難に正面から立ち向かい、その答えを考え、見つけ、実行に移していく、そのような人材を明治大学は送り出していかなければなりません。近代化、国際化の中で大学を起こした創立者3人の気持ちに似た感覚を覚えているところです。

コロナに負けない大学づくりに奔走した2020年

上野 2020年は新理事会発足、大六野学長就任1年目となりましたが、新型コロナウイルス感染症の流行による世界的な影響を受け、大学も今までにない対応を求められる1年となりました。振り返っていかがでしたでしょうか。
柳谷 昨年4月に新理事会が発足しましたが、それからは新型コロナウイルス感染拡大の対応に追われた日々でもありました。そうしたコロナ禍における新理事会の役割は、第一に学生と教職員の皆さんの健康と安全を守ること、そして大学業務の継続性を守ることでありました。そこで、早速、緊急事態本部を立ち上げ、教学と一体となって生活困窮学生への支援とオンライン環境整備のための支援、合わせて約21億円の措置を取りまとめました。教職員の皆さんもオンライン授業への対応や支援の手続きなど、ご苦労も大変多かったことと存じます。改めまして御礼を申し上げます。
 さらに、教学からの提案により、今後も発生するであろう災害やウイルスで学生の修学機会が奪われることのないよう、他大学に先駆けて「明治大学学生・教育活動緊急支援資金」を新設しました。このファンドには法人として5億円供出しましたが、北野校友会長よりいち早く校友会から2億円、また小林連合父母会長より父母会から5000万円ものご寄付を賜りました。さらに、賛同いただいた大勢の校友の皆さまを中心に、11月末日現在で約1億3600万円、件数にして3300件ものご支援が寄せられております。まさに「同心協力」「明治はひとつ」でありまして、こうした現役学生への支援に対しまして、改めて心より厚く御礼を申し上げます。なお、法人としましても、このファンドに引き続き資金を供出し、今理事会の任期中に10億円を上回るファンドにして将来に備えます。
 ところで、2020年を学校法人経営の視点で振り返りますと、新たな施設の建設が本格的に動き出した年となりました。創立140周年記念事業の一つとして、和泉キャンパスに初年次教育、教養教育、国際教育などの教学のコンセプトに基づきまして、約1万2000平米の規模で、新教育棟を昨年3月に着工いたしました。コロナ禍ではありますが、2022年3月の竣工に向けて順調に工事が進んでおります。
 こうした取り組みが動き始めましたのも、2019年度決算で、企業の純利益に相当する基本金組入前当年度収支差額が9年ぶりに30億円を超える黒字になったことが大きな支えとなっています。本年はコロナ対策による支出が増加しており厳しい決算が予想されますが、引き続き教育研究環境の充実を通じて、学生の皆さんの成長をしっかり支えてまいる所存です。



大六野 昨年4月の就任以降の主たる業務は、コロナ禍でどのように質の高い教育と研究を維持するかということでした。経験したことのない感染症への恐れと楽観論が入り交じり、意見を1つにまとめていくのは、柳谷理事長ともども大変苦労したところです。理事長をはじめ法人役員の皆さまには、コロナ禍での教学のさまざまな要求に迅速にお応えいただき、「明治大学学生・教育活動緊急支援資金」の設立にも積極的にご協力いただきました。教学と法人が車の両輪として、いや、それ以上に協力して働くことができるのだということを証明でき、感謝の念に堪えません。
 2019年12月に発表した教学長期ビジョン「グランドデザイン2030」ではオンライン授業を2030年までに500科目で実施するという目標を掲げましたが、実はこの数ヵ月間に、1万6500科目をオンライン授業に切り替えるという離れ業を成し遂げることができました。これは教職員の皆さんの「何とかして学生の教育を維持していきたい」という強い思いとこれを支える理事会体制があったからこそだと実感しています。学生も教職員もオンライン授業の環境を活用できるようになり、次に考えるべきことは「対面か、オンラインか」という二元論的な捉え方ではなく、学生たちに提供すべき教育の効果を最大限に発揮するために、どのような手法で実行していくかということだと思います。すでに、学長プロジェクトの下で、国内外を問わず、オンラインを含め最大限の教育効果を上げられる授業の体制の検討に入っていますので、私の任期中には具体的な形で、世界基準で「なるほど」と思われる教育体制を作っていきたいと考えております。
 また、今後は、学部や研究科の枠を超えた学位プログラムの創造や、実社会との連携によるビッグデータの活用など、ありとあらゆる角度から検討し、将来に向けた研究体制のあり方についてもイノベーションを起こしていかなければなりません。

コンパクトでインパクトのある周年事業を

上野  それでは、これらの状況を踏まえ、2021年の法人運営について、柳谷理事長のお考えをお聞かせください。
柳谷  明治大学は1951年に戦後の私立学校法の制定に伴って財団法人から学校法人へと組織変更し、あわせて寄附行為も制定し、私立大学として新たな歩みをスタートしました。「学校法人明治大学」の誕生は、今日の明治大学の発展につながる重要な転換点といえますが、本年でちょうど70年目を迎えることとなりました。そうした時期に、法人としての一層のガバナンス強化と多様性の確保という観点から、今理事会では本学初となる常勤監事と女性の理事・監事を選任いたしました。多様な視点とエビデンスに基づく意見交換を通じて、法人としての経営の健全性を高め、次への飛躍を目指してまいります。
 さて本年は創立140周年を迎えますが、コロナ対応で支出が増加していることを踏まえ、周年事業については費用面ではコンパクトに、内容的にはインパクトのあるものにしていきたいと考えています。すでに、2018年末より創立140周年事業実行委員会を開催し、記念式典・祝賀会、教学記念事業、スポーツ記念事業、広報戦略の4つの分科会において、周年事業の計画を具体化しております。例えば、本年11月1日の本学創立記念祝日に記念式典と祝賀会を開催することや、140周年のロゴマークも決定しています。さらに、先ほど申し上げました和泉キャンパス新教育棟の建設に加え、1月15日には駿河台キャンパスに3歳から15歳までの子どもたちを対象とした「明治大学子どものこころクリニック」がオープンします。また、1月17日の創立記念日には、主要な全国紙への広告掲載も企画しています。私も140周年記念事業の実行委員長として全力で取り組んでまいりますが、コンパクトでインパクトのある周年事業の実現に向け、校友をはじめ関係の皆さまには引き続きご支援とご協力のほどお願い申し上げます。



上野 2021年の教育・研究体制はいかがでしょうか。
大六野 先ほどの話の続きとなりますが、学長プロジェクトとして、メディア授業の展開について検討を進めています。これまでの対面授業をそのままオンラインに授業に据え換えるというのではなく、効果的な教育法への転換を探っています。教室や校舎という概念を超え、時と場所を問わず、場合によっては海外の学生と共に授業を受けることもできるわけです。例えば、留学生が来日前に明治大学の授業を受けることや、明大生が留学先の授業を事前に日本で受けるなど、それぞれに留学先での負担を軽減しながら両校での学位取得を目指すというダブルディグリーやデュアルディグリーという考え方もできると思います。国内に目を向けると、現在、首都圏出身の学生が全体の7割くらいですが、地方の学生を巻き込めるようなオンライン教育を考えるプロジェクトも、2022年のスタートに向けて計画を進めています。
 そして、文理の枠にとらわれない新たな分野への研究に積極的に挑戦できる体制を整えたいと考えています。その手法の一つとして国の内外を問わず、必要な人材がフレキシブルに異動できるような「クロスアポイントメント」という制度についても検討しています。2021年度中には具体的な方策を示せればと考えています。
 また、授業のコマ数削減も大きなトピックです。良質な授業の実施と研究時間の確保のため、コマ数削減は必要なことだと考えています。学生のニーズに耳を傾けながら、高等教育機関としての大学教育のあり方についても学長スタッフで検証しています。

未来を見据え「明治大学のあるべき姿」とは

上野  中長期的な視点としてポストコロナ時代の大学のあり方についてお聞かせください。
柳谷 ここ数年、学生が持参するスマホやタブレットなどの情報端末を、あらゆる授業で活用するBYOD(Bring Your Own Device)という言葉をよく耳にするようになりました。デジタル化された教科書、資料やノート、あるいは配信動画などを利用して教育効果の高い授業を展開する。さらには、遠隔授業やアクティブ・ラーニング、課題解決型授業などにおいてもBYODは有効であるといわれています。ポストコロナ時代は、BYODを含めたオンライン授業と、対面によるリアル授業のハイブリッド化が進むことでしょうが、こうした情報環境整備と施設設備計画を中長期的に見据えながら、人、モノ、カネ、そして情報という経営資源を適切に配分していくことが求められる時代になったと考えています。大学全体を俯瞰しながら、教学と一体となって、優先順位を見極めてまいりたいと存じます。
 ところで、2015年の国連サミットでは"No one will be left behind."すなわち「誰一人置き去りにしない」という精神をベースに、2030年に向けて世界が一つになって持続可能なより良い社会を作る活動が始まりました。環境、健康、食料、教育など17の持続可能な開発目標・SDGsが採択されたわけです。そうした中、新型コロナウイルス感染拡大により世界的なパンデミックが起きた結果、地球のキャパシティを越えない「続く世界」を目指して、本気でSDGsに取り組まなければならない時代を迎えたと考えています。ポストコロナ時代においては、大学は個々の学生の能力を高めていくことはもちろん、世界の抱える課題を学び、その解決に向かわせていくことが求められています。明治大学は、そうした人類の課題解決のため、その先頭に立とうとしているのです。



大六野 まさに理事長がおっしゃったことが重要です。明治大学のスローガンには「『個』を強くする大学」というものがありますが、なぜ強い「個」を生み出さなければならないかというと、急速に展開している今のグローバル化社会の中で生み出されるさまざまな可能性と歪みに常に対応し、人間が人間として生きるに値する社会を実現することが求められているからです。10年後、20年後を見据え、「明治大学のあるべき姿」について、大学に関係する皆さまの合意を作り出すことが、教学の長としては一番大きな責任ではないかと思っています。
 また、世界中の教育機関もそうであるように、明治大学だけで、全ての人が満足する教育を提供することはできませんが、世界中の大学や研究機関、公的機関の持っている資源を共有し取り込むことで、これが解消できると思います。先ほど申し上げたオンラインを活用した留学と共に、海外から教員を一時的に専任教員として招くなど、互いの強みを生かした相互協力を行い、明治大学の教育力や研究力を強めていく未来図を描いています。

明治大学のプレゼンスを高め「前へ」

上野  それでは最後に2031年の本学創立150周年に向けた抱負をお聞かせください。
柳谷  創立140周年を迎えた本年は、同時に次の150周年に向けた長期ビジョンを策定する年となります。すでに昨年から「長・中期計画策定委員会」を開催し、11月1日の創立140周年記念式典でその骨子を発表する予定であります。
 ところで、世界大学ランキングを作成しているタイムズ・ハイヤー・エデュケーション社によりますと、世界には2万を超える大学があるとされています。またその中には、現在の大学の原型といわれるイタリアのボローニャ大学が1088年創立、イギリスのオックスフォード大学は1096年創立ということで、日本の平安時代にできた1000年近い歴史を誇る大学もあります。一方で国連の推計では、現在76億人といわれる世界人口は2050年には98億人に達するとされており、世界の高等教育のマーケットは拡大基調が続きます。そうした中で、本学も世界各国の大学と教育・研究レベルで本格的に競い合う時代を迎えているのです。
 私たちは「世界の中の日本」、「世界の中の明治大学」という視点を持って、世界に開かれ、発信する大学を目指さなければならないと考えています。150周年はその実現に向けた大きな通過点となります。そして、このような重要な時期に、国際交流を担当する副学長として本学の国際化を牽引してこられた大六野学長が教学のトップになられたことは、本学にとりましても誠に心強い限りであります。今後とも教学と法人が共に手を携えて、明治大学のプレゼンスをグローバルベースでも高めてまいりたいと存じます。
大六野 今まで学校法人明治大学の長期ビジョンは、教学の計画とリンクしていない部分もありました。教学の長期ビジョン「グランドデザイン2030」を昨年発表したので、わずか1年の差はありますが、教学と法人の計画を密接にリンクをさせながら次期長期ビジョンを策定していくという道筋をつけることができました。これはこれまでにない画期的なことで、明治大学のこれからが大きく変わっていくことの証左だと思います。
 すでに、明治大学の教育や研究の中には、世界水準のものがたくさんあります。それをつなぎ合わせ、「明治大学はやっぱりすごい」と思っていただけるような大学にしていきたい。自分たちを過信するわけではありませんが、学生、教職員、校友、ご父母の皆さんの力を一つにまとめて、自信を持って一歩一歩「前へ」進んでいきたいと考えております。
上野  2021年は法人と教学がスクラムを組み、力強く進んでいければと思います。本日はありがとうございました。
理事長 柳谷 孝
1975年明治大学商学部卒業。1975年野村證券㈱(現:野村ホールディングス㈱)入社。1997年同社取締役、2002年同社代表取締役専務取締役。2006年同社代表執行役副社長、2008年同社副会長など歴任。昭和産業㈱社外取締役などを務める。2016年5月より現職

学長 大六野 耕作
1977年明治大学法学部卒業、1982年同大学院政治経済学研究科博士後期課程単位修得退学。1982年明治大学政治経済学部専任助手、1984年同専任講師、1988年同専任助教授を経て1995年同専任教授。政治経済学部長、副学長(国際交流担当)など歴任後、2020年4月より現職。専門分野は「比較政治論」

副学長(広報担当) 上野 正雄
1980年明治大学法学部卒業。裁判官を経て2003年明治大学法学部助教授、2004年明治大学法科大学院法務研究科助教授、2007年明治大学法学部准教授、2010年同教授。学長室専門員など歴任。専門分野は「犯罪学」