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柳谷理事長・大六野学長 新春対談「創立150周年に向けて『前へ』」



あけましておめでとうございます。今回は新春対談として「創立150周年に向けて『前へ』」と題し柳谷孝理事長、大六野学長のお二人に年頭所感も含めてお話をお伺いしました。

「同心協力」で明るい年に

上野正雄副学長 あけましておめでとうございます。本日は「創立150周年に向けて『前へ』」と題して柳谷理事長、大六野学長のお二人にお話をお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。



柳谷孝 理事長 あけましておめでとうございます。昨年はコロナ対応に追われ続けた日々でしたが、今年こそ学生たちがいきいきとキャンパスライフを送れる年に、そして、校友の皆さんと共に肩を組んで声高らかに校歌を歌える年になることを願っています。同時に、本年はニューノーマルやネクストノーマルといわれる時代に向け、新たなスタートを切る年にしたいと思います。
 ところで、この2022年の干支は、「壬寅」であります。壬は「陽気をはらむ」、寅は「春の草木が生ずる」との意味で、壬寅は「厳しい冬を越えて芽が吹き始め、新たな飛躍の礎となる」といわれる年です。そして、寅は「決断力と才知」の象徴ともいわれています。本年を教職員の皆さんはもちろん、校友やご父母をはじめとするステークホルダーと「同心協力」して、次の創立150周年に向けた新たな飛躍の一年にしたいと考えています。私も学長と共に、その先頭に立ってまいります。
大六野耕作 学長 あけましておめでとうございます。昨年はコロナ対応が中心となりましたが、本学創立140周年という記念すべき年でもありました。2019年には2030年の本学の将来像(ビジョン)と、その実現のための重点施策を示す、教学の「グランドデザイン2030」を制定しました。これが、昨年11月の創立記念式典内で柳谷理事長と共に発表した学校法人明治大学の長期ビジョン「MEIJI VISION 150—前へ—」の「教育」「学生支援」「研究」「社会連携・社会貢献」の4項目における全学ビジョンとなりました。次の10年に向けて、学長スタッフをはじめとする教学の中で進めてきた明治大学の強みを伸ばしていくための検討を、いよいよ今年からは一つずつ現実のものにしていきたいと考えております。
 校友、ご父母、教職員の皆さまにご協力いただきながら明るい年にしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

2021年の明治大学を振り返って

上野 おニ人のお話にもあるとおり、2021年は2020年に引き続き新型コロナウイルス感染症への対応が世界的にも大きなトピックとなりました。大学の対応や、今後の方針についてお聞かせください。
柳谷 コロナ禍における今理事会の役割は、「学生と教職員の健康と安全を守ること」、そして「大学業務の継続性を守ること」でありました。そこでまずまっ先に、生活困窮学生への1人10万円の支給や全学生を対象にオンライン環境整備のための支援など合わせて約21億円の学生支援を行いました。また、他大学に先駆けて、今後とも起こりうるであろう感染症や災害で学生たちの修学機会が奪われることのないように「明治大学学生・教育活動緊急支援資金」というファンドを立ち上げ、可及的速やかに支援できる体制を構築しました。こうした対策は全国私大の中でも最も手厚い内容となっておりますが、これも4400人を超える校友やご父母の皆さまから賜りました約4億6000万円に及ぶご寄付のおかげであります。心より厚く御礼を申し上げます。なお、このファンドは学校法人からの供出金を加えまして、現在10億円を上回る規模となっております。さらに、キャンパス内におけるワクチンの大学拠点接種につきましては、医学部のない本学ではありますが、何とか昨年9月1日よりスタートし、学生や教職員をはじめ1万人を上回る方々が、2回目の接種を完了いたしました。
 以上のような学生支援や大学拠点接種などのコロナ対応では、学長をはじめとする教学と緊密に連携し、特に職員の皆さんには、学生へのアンケートなどを繰り返し行っていただき、部署を越えた応援体制を築いていただきました。改めまして、教職員の皆さまに御礼を申し上げますとともに、多くの本学関係者の「同心協力」に感謝いたしております。



大六野 2020年4月の学長就任以降、約2年弱にわたって長い期間コロナ対応に当たってきました。この間、校友、ご父母の皆さまから大学の取り組みに対して、ご理解・ご支援をいただいたことについて改めて御礼申し上げます。また、教職員の皆さんには状況の変化に応じて、さまざまな対応をしていただきました。コロナ初年となった2020年は、突然に訪れた感染症に対して、日々手探りで対応してきたという状況でした。2021年に入ってからは経験を踏まえ、学生への支援や情報環境の整備などを引き続き行い、オンライン授業と対面授業を組み合わせたハイブリッド形式で授業を運営してきました。緊急事態宣言も解除され、10月からキャンパス内の活気も少しずつ戻ってきています。苦しい時期ではありましたが、将来に向けて何をすべきかということが明確になった1年だったと思います。
 オンライン授業については、学生へのアンケートを実施してどのような授業に魅力があり、効果が高かったのかということをいち早く分析するとともに、良い事例を紹介する「オンライン/メディア授業事例紹介Webサイト」を学内向けに公開いたしました。さらに、こうした事例を踏まえまして、次年度からハイブリッド形式も含めて一段と教育効果の高いメディア授業が展開できますようガイドラインも策定し、併せてこれに関連した規定化についても検討を進めています。今後の動向についてまだ見通せない部分もありますが、これまでの経験を生かして、明るい未来に向けて努力を重ねてまいりたいと思います。
上野 2021年は大学創立140周年を迎え、11月には記念式典も挙行しました。3月まで記念事業は続きますが、記念事業を振り返ってみていかがでしたでしょうか。
柳谷 明治大学創立140周年記念事業につきましては、2018年末より実行委員会を開催し、コロナ対応で支出が増加していることを踏まえ、「費用面ではコンパクトに、内容的にはインパクトのあるものに」というコンセプトで準備してまいりました。実際、施設整備を除く記念事業関連費用は、130周年の時に比べ4分の1以下となりました。一方、インパクトのある事業としては、昨年11月1日の本学創立記念祝日に開催した明治大学創立140周年記念式典が挙げられます。当日は寬仁親王妃信子殿下、萩生田経済産業大臣をはじめ、多くの方々のご臨席を賜りました。そこでは第2次長期ビジョンである「MEIJI VISION 150—前へ—」を学長と共に公表いたしました。このような場で理事長と学長が二人揃って公表するのは、本学始まって以来のことではないでしょうか。また、校歌斉唱が叶わない中、ハーモニカ奏者の寺澤ひろみさんによる校歌の演奏や、校歌誕生秘話に関するアニメ「『明治大学校歌』誕生物語り」を披露しました。さらに、これまでの大学の発展への貢献に対し、個人および団体へ功労者表彰を行いました。
 また、記念事業としては、和泉キャンパスにおける新教育棟「和泉ラーニングスクエア」を本年3月竣工予定で建設中ですし、昨年1月15日には医学系学部のない大学としては初めて児童思春期の精神科医療部門として「明治大学子どものこころクリニック」を開院いたしました。そして、「明治大学140年小史」「鵜澤總明と明治大学」「白雲なびく遥かなる校友山脈 スポーツ編」の3冊の本を刊行するとともに、創立時から今日に至る「校友山脈」の展示を行いました。140年にわたる本学の諸先輩の精神が、学生や教職員そして校友をはじめとする本学関係者の未来にとって、「前へ」と進んでいく上での「勇気の灯火」となりますことを願っております。
 以上、申し上げましたような記念事業を支える明治大学創立140周年記念事業募金に対しまして、校友やご父母をはじめとする多くの方々からご寄付を賜り、昨年末の総額で7億円を超える額となっております。創立140周年記念事業実行委員長として、改めまして厚く御礼を申し上げます。
大六野 記念式典後に、多くの校友の皆さまから、「理事長と学長が並んで将来の明治大学の姿を語っているところが素晴らしかった」と長期ビジョン発表に関する感想をいただきました。これまでも教学・法人がお互いに協力しながら150周年を見据えて歩んでまいりましたが、改めてその実現に向けた意志表明だということを皆さまにお伝えできて本当に良かったと思っています。大学の創立140周年記念サイトにおいて、式典の記録動画を公開していますので、まだご視聴いただいていない方はぜひご覧いただければと思います。
 記念事業の目玉でもある、「和泉ラーニングスクエア」は、理工学部建築学科の初代学科長でもある堀口捨己先生が設計された第二校舎の精神・外観を継承しながら、その思想を先進的教育空間として発展させた新たな「学びの場」の創出を目的として建設が進められています。学生が自発的に学習し、コミュニケーションを取るためのリアルな空間でありながら、さらに、世界とつながる仮想空間にもなるというアイデアが盛り込まれています。エントランス部分から吹き抜けとなる上の階層を見上げていただくと、せり出した個室がキュービクルのように設置されていることに気付くことと思います。この個室の中には最先端のICT設備が組み込まれ、国内外の学生とオンラインで交流することが可能です。本当の意味でのアクティブ・ラーニングが行える施設がいよいよ和泉キャンパスの中に誕生します。
 また、「子どものこころクリニック」はまもなく開院から1年を迎えます。精神的に不安を抱えたお子さんたちが社会から隔離されることなく、自由に過ごせるための拠点として地域に開かれた保健医療機関であり、公認心理師・臨床心理士を目指す学生の研修機関としての役割も果たしています。

長期ビジョン「MEIJI VISION 150—前へ—」



上野  長期ビジョン「MEIJI VISION 150—前へ—」に基づく法人・大学運営についてお聞かせください。
柳谷  本学のミッションである建学の精神や理念のもと、創立150周年を迎える2031年に向けてあるべき姿を示したものが「MEIJI VISION 150—前へ—」です。学長のもと策定した「明治大学グランドデザイン2030」に大学経営における全学ビジョンが加わり、法人と教学が一体となったビジョンが完成しました。コンセプトは「前へ」です。副題は「個を磨き、ともに持続可能な社会を創る」としました。多様な個を磨き、自らの道を切り拓く「前へ」の精神を堅持して、時代を変革していく人材を育成するという願いが込められています。
 ところで、大学経営においては、教育研究の質的向上を支えるため、強固な財政基盤の確立が重要です。そのため企業の純利益に相当する基本金組入前当年度収支差額や寄付金収入について、具体的な数値目標を定めました。また、ニューノーマルな時代に対応するためのガバナンスやコンプライアンスの強化も必要です。今理事会では初めて常勤監事を置き、さらに本学初の女性理事や女性監事を選任しました。多様な視点とエビデンスに基づく意見交換を通じて健全な法人経営に努め、次への飛躍を目指してまいります。
 さらに、創立150周年に向けた大きな計画として、駿河台キャンパスにおいて神田猿楽町地区を中心とした施設整備計画を予定しています。また、生田キャンパスにおける第二中央校舎の建設等、他キャンパスにおける施設計画も予定しており、次代に向けた高品質のメディア授業やデジタル化による膨大な情報の統合管理の推進などの情報化戦略と合わせて、アジアのトップユニバーシティにふさわしいハブとなるキャンパスを目指し、大学のレジリエンスを強化していきます。
 なお、今後18歳人口の減少に伴う大学進学者数の減少は確実であり、将来にわたり安定した入学者を確保するため、付属校政策も進めてまいります。学校法人明治大学は長期ビジョン実現に向け、現在策定中の2022年度からの第3期中期計画を通じて、より具体的な施策に取り組んでいきます。そして創立150周年に向けて、どのような困難に直面しようと、歩みを止めることなく「前へ」と進んでまいります。
大六野 現在、学長室では、長期ビジョンに基づく具体的なプロジェクトに着手しています。先ほど紹介したメディア授業のガイドライン策定をはじめ、学内の業務遂行に関わる各種手続の簡素化や、柔軟な研究活動・教育活動のため優秀な人材を取り入れるためのクロスアポイントメント制度などです。今の大学を運営していくことはもちろん、それだけに留まらず、10年後やさらにその10年後を見据えて、世界、特にアジアの中で、明治大学で学びたい、研究したいと思ってもらえるような環境づくりが重要です。学生が知識やスキルを習得するための効率をさらに向上させることや、教員が研究に使える時間をより多く確保するためにできることを丁寧に考えていきたいと思っています。その一方で、「学生が集まれる場所が少ない」「新たな研究を展開する場所がない」という声もあります。駿河台キャンパス・猿楽町地区の開発を法人の問題として捉えるだけでなく、教学が将来のビジョンを描く中でも重要な位置を占めているということを意識しながら進めていきたいと思います。

アジアのトップユニバーシティとして輝くために 

上野  それでは最後に2022年の法人・大学運営に関する抱負をお聞かせください。
柳谷 2022年は長期ビジョンに基づき、次の150周年に向けて「前へ」と発進する年となりますが、そもそも米国の大学のケースを見ても、極めて長い時間軸で大学改革に取り組み、その結果として世界のトップレベルを実現しています。例えば世界のトップユニバーシティであるスタンフォードにしても、実は1930年代までは米国内においてすらトップユニバーシティではなく、もっとずっと低いレベルでした。スタンフォードがトップレベルに入り始めたのは1960年代のことであります。その間、教授陣の国際公募を行うとか、シラバスを作り、学生が教授陣の授業を評価するティーチングエバリュエーションを果敢に進めていったといわれています。そして、大学運営をリードできる優秀な職員を採用し、さらに育成して、大学改革を実現していきました。
 本学も長期ビジョンをもとに、長い時間軸で未来の発展を実現していく必要がありますが、それを支えていくのは何と言っても人材です。中でも学校法人経営に関する行政や運営を中心となって支え、リードしていくのは職員の皆さんです。そのような観点から「MEIJI VISION 150—前へ—」の大学経営における全学ビジョンに「職員人事政策、事務組織」の項目を掲げました。実は昨年6月に若手職員を中心とする自主的な「政策提言の場」が開催され、大変に内容の濃い提案をいただいたことが、この発端となっています。ニューノーマル時代における職員は、急速に変化する外部環境に対して自己変革する能力であるダイナミック・ケイパビリティ(動的能力)と、決められた事を正しく的確に行う能力であるオーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)を併せ持つ「プロフェッショナル人材」となる事を期待しております。そして、その実現の一助として、これまでの職員研修制度を見直し、質量とも大幅に充実してまいります。2022年の年頭にあたり、本学がこの21世紀にアジアのトップユニバーシティとして輝き続けていくために、「人材育成、人材投資」に本気で注力していく、そのスタートの年にしたいと考えています。



大六野 私は学長に就任する前、合わせて13年間にわたって体育会ラグビー部長を務めておりました。ご存じのとおり、ラグビー部は1997年の大学選手権優勝を最後に2019年の王者復帰まで、22年間にわたり長い低迷期にありました。この長い低迷のトンネルを抜け、常に優勝を争うチームに変身し、再び日本代表に多くの選手を送り出すようになった背景には、極めてシンプルで覚悟さえあれば誰もが実行できる小さな努力の積み重ねがありました。それは、勝てない理由をとことん突き詰めて共通の理解とし、その解決への実行可能な方策をチーム・個人のそれぞれが考え、妥協せず実施し続けるということです。さらに、部長としてこのチーム・個人の努力をサポートする体制づくりを行い、これら一連のアクションを「よい準備」と位置付けました。明治大学がアジアのトップユニバーシティとして評価され、その力を発揮できるためには、大学を構成する教職員(プレーヤー)がそれぞれ現状をしっかりと把握し、そこから改善できることを妥協せずに続けていくことが重要です。学生・教職員が活力にあふれ、「前を向いて」教育・研究に取り組める環境づくりこそが学長としての私の責務だと考えています。2022年は皆さんと共に「よい準備」をしていきたいと思います。
上野  ありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
理事長 柳谷 孝
1975年明治大学商学部卒業。1975年野村證券㈱(現:野村ホールディングス㈱)入社。1997年同社取締役、2002年同社代表取締役専務取締役、2006年同社代表執行役副社長、2008年同社副会長など歴任。昭和産業㈱社外取締役などを務める。2016年5月より現職

学長 大六野 耕作
1977年明治大学法学部卒業、1982年同大学院政治経済学研究科博士後期課程単位修得退学。1982年明治大学政治経済学部専任助手、1984年同専任講師、1988年同助教授を経て1995年同教授。政治経済学部長、副学長(国際交流担当)など歴任後、2020年4月より現職。専門分野は「比較政治論」

副学長(広報担当) 上野 正雄
1980年明治大学法学部卒業。裁判官を経て2003年明治大学法学部助教授、2004年明治大学法科大学院法務研究科助教授、2007年明治大学法学部准教授、2010年同教授。学長室専門員など歴任。専門分野は「犯罪学」