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柳谷理事長・大六野学長 新春対談「2023年の明治大学」

和泉ラーニングスクエア1階エントランスにて

あけましておめでとうございます。今回は新春対談として「2023年の明治大学」と題し柳谷孝理事長、大六野学長のお二人に年頭所感も含めてお話をお伺いしました。

2023年を飛躍の年に



柳谷孝 理事長 あけましておめでとうございます。昨年はコロナ禍が続く中で、ロシアのウクライナ侵攻や、安倍元首相銃撃事件など悲惨な出来事が続いた年でした。そのような中で人々に元気を与えてくれたのがスポーツです。北京冬季オリンピック・パラリンピックの日本人選手の活躍、野球では米大リーグの大谷選手の「二刀流」での活躍や、国内ではヤクルトの村上選手の最年少三冠王獲得、またサッカーワールドカップのカタール大会における日本チームの活躍等、若者たちが躍動した年でもありました。もちろん大六野学長が会長の本学体育会も硬式野球や射撃、サッカー、卓球、フェンシング、ソフトテニス、拳法、自転車、ボードセーリングでの団体種目優勝等、枚挙にいとまがない程の活躍で、学生たちはもちろん、校友やご父母に多くの感動を与えてくれました。まさに「ブラボー!」です。

さて、本年の干支は「癸卯(みずのと う)」です。物事の終わりと始まりを意味する「癸」と、安全や温和、また跳び上がるという意味の「卯」。この組み合わせから、これまでの努力が実を結び、勢い良く成長し飛躍する年になるといわれています。同様にまた、今まで培ってきた自身の力が試される年ともいわれます。本学もアジアのトップユニバーシティを目指し、2023年を大きな飛躍の年にしたいと考えています。

大六野耕作 学長 あけましておめでとうございます。3人の若い法学者が心を込めてつくりあげた明治大学は、幾多の困難を乗り越え140年を超える歴史を紡いでまいりました。しかし、今日、3年を経ても未だに収束しない新型コロナウイルス感染症のパンデミック、既に1年に近いロシアとウクライナの戦争、地球温暖化の進行等、世界は大きな難局に直面しています。こうした中で、人類の生存に関わる環境問題、世界・社会を分断化させかねない富の格差等の問題を乗り越えていく知恵が必要になります。明治大学は、このような問題に正面から立ち向かい、その解決につながる道筋を見つけ、これを実行に移すことのできる人材を生み出していかなければなりません。新春にあたり、19世紀の終わりに日本の近代化とそれを支える自律的な個人を生み出すために、20代後半の若さで明治法律学校を創立することを決断した3人の創立者に思いをはせているところです。

2022年の明治大学を振り返って

—— 2022年の明治大学を振り返っていかがでしたでしょうか

柳谷 皆さまご承知のように、一昨年11月1日の創立140周年記念式典の場において、次の創立150周年を迎える2031年に向けた本学のあるべき姿を示した長期ビジョンであります「MEIJI VISION 150-前へ-」を学長と共に公表いたしました。そして、140周年記念事業の目玉の1つが和泉キャンパスの新教育棟「和泉ラーニングスクエア」です。前理事会において、日本を代表する建築家である堀口捨己先生の建築思想を受け継ぎながら、初年次教育、教養教育、国際教育といった教学のコンセプトに基づいて、建設計画を進めてまいりました。そして、今理事会においてコロナ禍におけるオンライン授業対応等を経験する中で、学長のもと次代のキャンパスの在り方を改めてご検討いただき、最新のメディア環境を整備するとともに、学生交流スペースを大幅に拡充しました。おかげさまで学生の皆さんに大変好評であると伺っております。この「和泉ラーニングスクエア」の建設にあたりまして、校友会や父母会を始め、多くの皆さまにご寄付を賜りました。改めて厚く御礼を申し上げます。

なお、体育会の施設整備についてでありますが、スポーツパーク構想が断念に至る過程で、既存の体育会施設の老朽化が進んでおりましたので、2019年には教学にスポーツ推進本部を設置していただき、建て替え等の優先順位を見極めた上で、それを基に大学全体を俯瞰し、理事会として最終的な決定をすることといたしました。昨年5月には体育会競走部・サッカー部の新合宿所を着工し、本年3月に竣工予定です。

ところで、昨年3月31日に学校法人明治大学と学校法人日本学園は系列校連携に関する協定を締結しました。本学は1949年に学校法人中野学園を系列校化しておりますが、それから70年以上の時間が経過しておりました。今後の少子化と大学進学者数の減少を見据え、優秀な生徒たちをあらかじめ確保していく必要があるという観点で、吉田茂元首相や永井荷風、横山大観、そして本学の第5代総長であった志田鉀太郎先生をはじめとする多くの著名人を輩出している伝統校であります日本学園を、系列校化することといたしました。2026年に現在の男子校から男女共学校へ、校名は明治大学付属世田谷中学校・高等学校へと変更し、本学への推薦入試による受け入れは2029年度からとなります。現在新たな系列校としてのグランドデザインとスケジュールについて両校で検討を行っているところであります。

一方昨年は、校友会代議員総会や父母交流会、そしてホームカミングデー等、オンライン形式での開催から3年ぶりに対面での開催が実現しました。しかしながらコロナ禍の影響により参加人数を制限したり、中には全国校友大会等いまだに開催に至っていないイベントもあります。本年こそ、皆さまと肩を組んで声高らかに校歌を歌うことができますよう、切に願っております。

—— 大六野学長はいかがでしょうか



大六野 2022年度の春学期からキャンパスへの通学を前提とした対面授業を再開しました。しかし、これは単にコロナ前の授業形態に戻るということではありませんでした。対面授業の全面再開に先立つ2年間で学んだオンライン授業の価値と可能性、その限界を認識した上で、オンライン授業のノウハウを生かした新しいメディア授業も展開するなど、教育の質の向上に資する教育改革を全学的に進めてきました。

これを象徴するのが、2022年3月末に竣工した和泉キャンパスの新教育棟「和泉ラーニングスクエア」です。「和泉ラーニングスクエア」は未来の教育を強く意識した新教育棟で、そこに足を踏み入れた瞬間から自分が未来社会にいるのではないかとの感覚にとらわれます。学生個人やグループでの主体的学びを促進するスペース「グループボックス」、学生同士が偶発的に集まり出会うことでイノベーションを起こす「プレゼンテーションラウンジ」、リラックスした雰囲気の中で学生同士の新しい出会いや会話が生まれる「グリーンテラス」等、本当の意味でのアクティブラーニングを具現化する、さまざまな新しい仕掛けや工夫が数多く盛り込まれています。もちろん、われわれが昨今のコロナ禍を経て修得したメディア授業への対応等も充分配慮がなされています。利用開始から1年弱が経ちましたが、外部の見学者はひきも切らず、利用者である学生・教員から高い評価をいただいております。特に、学生のキャンパス滞留時間が大幅に伸びています。

コロナ禍でわれわれが気付いたのは、一番重要な教科書はキャンパスかもしれないということでした。自分とは異質の意見と出会い、既成概念を変革させ、成長していく。これを実現させるための空間こそが和泉ラーニングスクエアだったのです。この空間で学友と交流し大きく成長を遂げた明大生が、全世界で活躍する近い将来を想像すると、学長としての期待は大きく膨らむばかりです。

2020年4月の学長就任以来、コロナ禍のため直接ご父母・校友の皆さまにお目にかかる機会が極端に制限され、もどかしい気持ちで過ごした2年間でございましたが、それでも、昨年は複数の地区の父母会総会・懇談会や校友会支部総会に参加させていただき、父母会・校友会の日頃からの変わらぬご支援を直接に感じたところです。本年は、さらに多くの父母・校友の皆さまと親交を深めたいと考えております。その際には、よろしくお願い申し上げます。

第3期中期計画がスタート

—— 柳谷理事長にお伺いします。今後の施設整備計画など、学校法人明治大学の法人運営についてお聞かせいただけますでしょうか

柳谷 先程申し上げました「MEIJI VISION 150-前へ-」の実現に向けまして昨年4月より第3期中期計画をスタートしております。この計画は大学経営・運営、財務戦略、施設整備計画、そして教育、研究、学生支援や社会連携・社会貢献等で構成されていますが、まず真っ先に意思決定が必要なのが「生田キャンパス第二中央校舎(仮称)」の建設です。

昨年3月に竣工した「和泉ラーニングスクエア」は、ロシアのウクライナ侵攻や円安による建築資材高騰等の影響を全く受けることがありませんでしたが、現在検討を進めている「生田第二中央校舎」につきましては、やはりある程度の影響は避けられないと考えております。そのような点では厳しいものがありますが、幸いここ数年で財政の健全化が一定程度進み、施設整備のための減価償却引当特定資産や中長期修繕引当資産等を各年度ごとに積み立ててきておりますので、よほどの事態にならない限りは、計画通りのスケジュールで建設計画を進め、生田キャンパスの強靭化を支えてまいります。何と申しましても生田は、校友会の向殿名誉会長や北野会長が教育研究活動に心血を注がれ、多くのご功績を挙げられたキャンパスでございますので、校友の皆さまにおかれましては、どうか倍旧のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

なお、創立150周年に向けた大きな計画として駿河台キャンパスにおける神田猿楽町地区を中心とした施設整備計画を予定しています。また、他キャンパスにおける施設計画も予定しており、次代に向けた高品質のメディア授業や、デジタル化による膨大な情報の統合管理の推進等の情報化戦略と合わせて、アジアのハブとなるキャンパスを目指し、大学のレジリエンスを強化してまいる所存です。

コロナ禍で変化する国際交流の取り組み

—— 続いて大六野学長にお伺いします。コロナ禍を経て変化する国際交流の取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか

大六野 ロシアによる一方的なウクライナへの軍事侵攻に対する人道的支援として、2022年9月の秋学期よりウクライナからの学生を7人受け入れております。時流に流されず為政者に支配されない「個」を持ち、多様性の尊重と包摂性を重視し、人類の未来のため「前へ」歩みだす勇気を兼ね備えた人材を育成したいという、本学の建学の理念からすれば当然のことでした。これからの時代を生きる若者に必要な力は、与えられた地図をなぞるのではなく、自ら未来をデザインする力、地図を描く力です。コロナ禍直前となる前の2019年度には海外へ渡航する留学者・海外から受け入れる留学生数がいずれも2300人を超えました。また、2019年度の日本人学生派遣数では、国内1・2位を争うなど日本でも有数の国際的な大学となっています※。2020年度は渡航制限が続く中でもいち早く「オンライン留学」を制度化し、現在は実留学(派遣・受入)の双方とも急速に回復しています。学生の気質にも変化が生まれてきました。世界ランキング上位の大学に留学し、卒業後に海外で就職する者や、海外の大学院で学位を取得した後に、グローバルなビジネス、外交官、国際機関、NGOで勤務、あるいは起業する卒業生も増えています。こうした学生を積極的に支援するため、1学期最大300万円を上限として支給する「海外トップユニバーシティ留学奨励助成金」制度など、支援体制を強化しています。

私自身も、昨年、海外大学の動向を自らの目で確かめ、海外の学長や総長とじっくりと議論する機会が3年ぶりに訪れ、多岐にわたる意見を交換してきました。世界の大学は新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経験する中でさらなる進化を遂げています。そうした大学に伍して明治大学が世界の耳目を集める大学になるために、2021年の本学140周年記念式典で発表した「MEIJI VISION 150-前へ-」にも掲げている「世界トップレベルの教育力ある大学」を目指し、さらに世界のトップユニバーシティとの連携を強化していきます。グローバル人材とは、単に語学力があるだけではなく、異なる価値観を受け入れながら、新たな道を見出していく力を持った人のことです。自ら道をつくり、この複雑な世界に新しい地図を描いていくような人材を世界に送り出していきたいと考えています。

2023年の明治大学の姿

和泉ラーニングスクエア2階ラーニングサポートベースにて

—— 最後に2023年の抱負をお伺いいたします

柳谷 中央教育審議会の答申では、わが国の大学進学者数は2040年には現在より20%減少して約51万人となり、高等教育機関を適正な規模にしていく必要があると指摘しています。そのような中で昨年はコロナ禍の影響で出生数が大幅に減少し、それに伴い2040年の大学進学者数は50万人をさらに下回ることになるでしょう。一方で世界に目を向けますと、昨年10月に80億人を上回った世界人口は2050年には98億人になると国連は予想しています。人口増加地域は、インド、インドネシア等のアジアとアフリカです。従って日本国内とは異なり、世界の高等教育のマーケットは拡大基調が続きます。また、2020年におけるアジアの主要国の大学生数は中国が約3700万人、インドが約2800万人、インドネシアが約780万人と、もはや収容定員を上回り、自国だけでは到底カバーできない数となっています。今後、アジアの家計所得は大きく伸び、留学生を支えられる家庭もまた増加します。そして、優秀な学生ほど海外を目指す傾向が強まります。

こうして未来を見据えますと、本学は「世界に開かれた大学」そして「世界に発信する大学」としての魅力を一層高めると同時に、国内においては系列校との連携やリカレント教育の強化が必要となってまいります。また、海外からの留学生受け入れにも注力し、キャンパス内のグローバル化を推進していく必要があります。これらの実現に向けて、国内外の多様な人々との「協働」に貢献する大学にふさわしい、教育研究環境の充実を目指してまいります。次の創立150周年、そして、その先の未来に向けて、本年を新たな飛躍の一年にすべく、私も学長と共に先頭に立って「前へ」とまい進する所存です。

—— 大六野学長、お願いいたします

大六野 われわれ大学の構成員はその足元の状況を見つめ、ある意味で1から将来の大学像を考え、その中から生まれる新たな構想を試しながら、協働して将来の大学をデザインする必要があるのではないか。また、そうすることによってのみ、次の時代に対応できる質の高い教育・研究の形を生み出し、将来を支える人材を生み出すことができるのではないかと感じています。「同心協力」の精神を持って開校し、「権利自由、独立自治」を建学の精神とする本学は、VUCA時代と言われる現代において、「人間が人間として生きるに値する平和な社会(世界)」の創出を目指す教育・研究拠点であること、そして、多様性の尊重と包摂性を重視した、「誰1人取り残さない」社会(世界)の創出を可能とする教育・研究の在り方を模索し実現するためにまい進してまいります。校友、ご父母、教職員の皆さまにご協力いただきながら、明るい年にしていきたいと思います。変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。

—— ありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願いいたします

※2019年度日本学生支援機構「日本人学生留学状況調査」より
理事長 柳谷 孝
1975年明治大学商学部卒業。75年野村證券(現:野村ホールディングス)㈱入社。97年同社取締役、2000年同社常務取締役、02年同社代表取締役 専務取締役、06年同社代表執行役 副社長、08年同社副会長など歴任。昭和産業㈱社外取締役などを務める。16年5月より現職

学長 大六野 耕作
1977年明治大学法学部卒業、82年同大学院政治経済学研究科博士後期課程単位修得退学。82年明治大学政治経済学部助手、84年同専任講師、88年同助教授を経て95年同教授。政治経済学部長、副学長(国際交流担当)など歴任後、2020年4月より現職。専門分野は「比較政治論」