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ユビキタス教育

クイーンズ大学(カナダ)・アリゾナ州立大学(アメリカ)を視察しました

2015年04月14日
明治大学 ユビキタス教育推進事務室

石灰岩造りが特徴のクイーンズ大学のキャンパス内石灰岩造りが特徴のクイーンズ大学のキャンパス内

アクティブラーニング教室(Ellis Hall 321)アクティブラーニング教室(Ellis Hall 321)

アクティブラーニング教室(Ellis Hall 333)アクティブラーニング教室(Ellis Hall 333)

クイーンズ大学ラーニングコモンズクイーンズ大学ラーニングコモンズ

クイーンズ大学の皆さんとクイーンズ大学の皆さんと

アリゾナ州立大学のキャンパス内アリゾナ州立大学のキャンパス内

授業自動収録・配信システムを備えた教室授業自動収録・配信システムを備えた教室

アクティブラーニング授業の様子アクティブラーニング授業の様子

アリゾナ州立大学のスタジオアリゾナ州立大学のスタジオ

アリゾナ州立大学の皆さんとアリゾナ州立大学の皆さんと

ユビキタス教育推進事務室では、高等教育機関における新たな情報通信技術(以下、ICT)や情報通信サービスの利用を推進するため、国内外の教育機関や関連企業、展示会等を視察・調査を実施している。
今回、アクティブラーニングのICE(Ideas,Connections,Extensions)モデルを開発したカナダのクイーンズ大学(国立、オンタリオ州キングストン市)と高等教育へのアクセス拡大と社会人の学位取得率拡大を目標としてオンライン教育を推進しているアメリカのアリゾナ州立大学(州立、アリゾナ州フェニックス市)を訪問し、授業見学や各大学の教職員との意見交換を行った。20日のクイーンズ大学でのミーティングには、理工学部・阿部直人教授(ユビキタスカレッジ運営委員長)も同行された。


クイーンズ大学視察(カナダ・キングストン)

クイーンズ大学は、1841年に設立された研究にも定評のある国立の総合大学である。
今回の訪問では、アクティブラーニングをキーワードに、授業見学および関連施設の見学、そして学内展開や調査・サポートを行っている担当者とのミーティング行った。クイーンズ大学では、ICTの活用レベルを変えた3タイプのアクティブラーニング教室を保有しており、授業内容や人数に合わせて使い分けている。136人を収容するEllis Hall321(教室)では、壁面ホワイトボードや音声設備が充実しており、学生同士の議論や意見の発表、教員への質疑を活発にするための様々な工夫がされている。教室のほぼ中央に設置された教卓は、高さが自由に調節でき、教室に「前」を作らないという概念のもと、教室のどこにいても同じように常に学生から教員の顔が見えるようになっている。また、実際の授業の様子を見学したEllis Hall 333(教室)では、グループごとに電子黒板が準備されており(壁掛け)、教卓や学生グループのテーブルに備え付けられているパソコンと接続することで、教員からの教材提示や学生のプレゼンテーション、資料・意見の共有を実現し、音声や動画、インターネットの情報なども授業の教材としてスムーズに活かせる環境を構築していた。これらのアクティブラーニング教室は、毎日終日、授業で埋まっているとのことであったが、更に希望する教員が多いため、事前に授業内容を運営側で精査し、有効活用できる教員(授業)を優先的に使えるようにしているとのことだった。この取り組みが成功している証である。
クイーンズ大学のこのようなアクティブラーニングの取り組みは、学生や教員の「こういった授業を受けたい・したい」という希望がまず先にあり、それらを授業設計の専門家(インストラクショナル・デザイナー※)やITの専門家らが丁寧にヒアリングし、構築・運営されている結果とみえる。「何をどう学びたいか」「どのような教育の提供方法が相応しいか」という意識をまず持ち、そしてそれらを実現する手段としてICTをどのように用いるのかを検討することが、ICTを教育に導入する過程において基本かつ理想的な在り方であると、改めて感じた。

※インストラクショナル・デザイナーとは
 教育活動の効果・効率・魅力を高めるためのシステム的なアプローチに関する方法論(インストラクショナル・デザイン)を用いて授業の設計・開発・実行・運営・評価を実践する専門家

アリゾナ州立大学(アメリカ・フェニックス)

アリゾナ州立大学(以下、ASU)は、1885年に設立された14学部を擁する州立の総合大学である。学長の「入学希望者を排除せず,入学させ,成功させることを通じて,自らを評価したい。」 という提案で始まった全学的オンライン教育を推進し、高等教育へのアクセス拡大と社会人の学位取得率拡大を目標[2020年までに現在の学生数(約83,000人/2014年秋現在)から、15万5800人、最低でも10万5400人の学生を獲得する]としている。
今回の訪問では、学長の方針をふまえたASUの新しい教育方針と全体の取り組みについて話しを伺い、オンライン教育を担っている部署にてミーティングを行った。また、収録設備のある教室やコントロール室、スタジオ、音声編集室などの施設やアクティブラーニングの授業の見学をした。

オンライン教育の推進について
現在、ASUの学生総数は約8万3千人であり、そのうち、1万3千人超のオンライン学生(平均年齢32歳、女性58%。オンラインの授業だけで学位を取得することも可能)がいる。このオンライン学生の97%はアメリカ国籍を持ち、アリゾナ州内や周辺の州に住んでいるとのことであった。英語圏の授業は、世界中で親しまれやすい印象を持っていたが、実際には、「どんな大学か」ということがよく見える近郊の大学が、学生からは選択されやすい傾向であることが分かった。ただ、大手コーヒーチェーンの米スターバックスがASUと提携して従業員がオンラインで学位を取得する資金を援助する取り組みを始めたことにより、東海岸など米国内でも遠方の学生も増えているとのことであった。
また、ASUでは、オンライン授業の質保証も積極的に取り組んでおり、「学んだ方法が違うだけで学位の価値は同一である」という立場を貫いている。オンライン教育の質の保証については、「Quality Matters」(以下、QM)をベースにしたASU版の開発をインストラクショナル・デザイナーが中心となり取り組んでおり、オンライン授業を制作する際のプロセスの標準化を目指している。
オンライン教育を推進するASUのスタッフが最も重要視していることは、「教育効果」であり、それを高めるために、インストラクショナル・デザイナーを中心として、教員との連携を強化し、評価の方法・教え方・教材の作り方・研究や教育動向の最新情報などを、トレーニングをとおして共有していた。その結果、実際にオンライン授業を行った教員のほぼ100%が、「対面授業の教材の改善にもつながった」「学生からの評価が向上した」などの成果も得ているとのことである。

アクティブラーニングについて
ASUでは、約2年前から本格的に授業にアクティブラーニングを取り入れており、現在では、たとえば生命科学部においては、300人の教員の中で50クラスにおいて展開されている。ここでもインストラクショナル・デザイナーが教員への支援を行っており、慣れていない教員には、最初は従来型の授業の一部(15分間)のみを、次に授業の半分を、などと段階的にアクティブラーニングを実践してもらう手法をとり、戦略的に展開を行っている。アクティブラーニングの授業は、学生の評価がよく、教育効果についても向上したため、徐々に取り入れる授業を増やしているとのことだった。
アクティブラーニング用の教室は、教室内の複数のディスプレイに教員や学生が持ち込んだ資料を投影させるだけのシンプルな設備であったが、学生たちは積極的に活発に意見を交わしている様子であり、教員の役割の重要さを強く感じた。


今回の訪問は、これまでの明治大学のユビキタス教育の歩みを振り返り、今後の在り方を検討するきっかけとなる、大変充実した機会となりました。
多大なるご協力を賜りましたクイーンズ大学Jonathan Rose准教授、Don Harmsen氏、Victoria Chen氏、アリゾナ州立大学Octavio Heredia氏、Tomasz Arkusz氏、Amy Pate氏、ほかご説明いただいた先生・スタッフの皆様、現地でのコーディネートや視察先への案内など、大変お世話になりました。
訪問させていただいた両大学の皆様の温かいおもてなしに、あらためて感謝申し上げます。

今回の視察に関して、より詳しい資料の閲覧をご希望の本学関係者につきましては、直接当事務室までお問い合わせください。皆様と情報を共有し、共に明治大学の発展に寄与できれば幸いです。

今後もユビキタス教育推進事務室では、ICTを活用したより良い教育環境を提供していくため、国内・海外問わず、多くの教育機関や企業と交流を広めていきます。

お問い合わせ先

明治大学 教育支援部 ユビキタス教育推進事務室

TEL:03-3296-4459 FAX:03-3296-4525