ユビキタス教育推進事務室では、新たな情報通信機器および情報通信サービスの高等教育への利用を調査するため、国内で開催されるセミナーや展示会(教育ITソリューションEXPO、Apple AcademiX等)、米国で開催されたCES(Consumer Electronics Show)など、情報通信・ICTの教育活用に関連するイベントにて視察・調査を実施している。そして今回、欧州での大学教育におけるeラーニングの動向や関連技術の調査を実施するため、ユビキタスカレッジ運営委員会副委員長である阿部直人理工学部教授と当事務室職員の3名が、ドイツ・ハノーバー市で開催された世界最大規模の情報通信技術見本市「CeBIT 2013」を視察した。また、その日程に合わせて、オランダ・デルフトに本拠を置き、eラーニングやオープンエデュケーションに積極的に取り組んでいる「デルフト工科大学」を訪問し、担当教職員と意見交換を実施した。
CeBIT 2013
今回のCeBIT 2013は、世界約70ヶ国から4,000社の企業が出展し、データ・資源・物資・インフラの共有に関わる「シェアエコノミー」というテーマのもと開催された。MicrosoftやIBMといった世界的なIT企業やドイツテレコムなどの通信会社、ITセキュリティ分野の企業が多く参加し、中国・韓国などからも多くの新興企業が出展していたのが印象に残った。残念ながら日本からの出展企業は少なかったが、その分、日本やアメリカで開催される展示会には出展していない欧州の企業を多く見ることができた。
教育分野では、欧州で教育機関向けの情報管理システムなどを提供している企業やドイツ州政府のブースを中心に話を聞いた。
その中では、ギリシャやアルバニア、ベラルーシで大学向けにe-Universityシステムを提供しているギリシャ企業で詳しく話を聞くことができた。ギリシャの大学においても、教育にタブレット端末などのモバイルデバイスを用いる大学が増えてはいるが、大規模な大学で実施されている程度とのこと。まだまだ試行錯誤しているところは、日本の状況と変わらないと感じた。また、ロシア企業のSpeech Technology Center(以下、STC社)では、生体認証、主に音声認証について話を聞くことができた。ロシアにおいては、国の正式な認可のもと、eラーニングの個人認証に音声認証での個人認証システムが広く使われているとのことだった。明治大学のeラーニングシステムにおいては、社会人など学外の受講者は、個人認証のために指静脈を利用した個人認証システムを採用している。指静脈の認証システムは、専用のハードウェアが必要となり、認証精度が高い反面、ハードウェアのコスト面やトラブル対応に苦労することが多い。STC社の音声認証システムは、専用の機材は不要で、パソコン内蔵のマイクや安価なマイクを使用することができるとのこと。コスト面においては、非常に魅力的なシステムだと感じた。また、認証精度をより高めるために、Webカメラを使った顔認証システムと併用したものも多く利用されているとのこと。今後eラーニングを含めて、ICTを活用した教育活動が広まる過程においては、より使いやすく安全な認証システムが求められる。今回の音声認証+顔認証の技術には今後も注目したい。
デルフト工科大学
デルフト工科大学(Delft University of Technology)は、国立の工科系単科大学で学部生約15,000人、大学院生約2,000人の規模である。eラーニングやオープンエデュケーションに積極的に取り組んでおり、大学の授業をインターネットを通じて広く社会に公開するOpenCourseWare(OCW)では、欧州で中心的な存在である。今年の秋からは、eラーニングだけで修了できる修士課程を開始する予定で、オランダ国内にとどまらず、世界各国から学生を確保することを目指し、航空宇宙や水資源マネジメントなど、諸外国のニーズに合う専攻課程が設置される。戦略的にeラーニングを活用するモデルとして、今後の動向に注目したい。
その他、明治大学と同様にiTunes Uにも力を入れており、昨年末には、CourseraやUdacityなど、MOOCs(Massive Open Online Courses)の中でも注目を集めるedXに参加を果たした。他のMOOCsと違い世界の大学でも数の限られた大学だけが参加しているedXへの参加により、大学の価値を上げることが目的の一つだと伺った。
また、デルフト工科大学では、全学的にeラーニングに用いられるLMS(Learning Management System)を活用し、学生の予復習用として多くの教員が授業の動画をLMS上に公開している。このシステムは、学生からの評判が良く、結果として授業を公開する教員が増えるという好循環となっていると感じた。この授業公開のために使用される収録システムについても、本学と同じシステムを導入していて、その運用方法や組織体制、大学内での展開規模など、多岐に渡る意見交換を実施することができた。
今後もユビキタス教育推進事務室では、ICTを活用したより良い教育環境を提供していくため、国内・海外問わず、多くの教育機関や企業と交流を広めていきます。