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2019年度秋季卒業式(2019年9月19日)

2019年度9月卒業式での学長告辞(駿河台キャンパス・リバティホールにて)


みなさん卒業おめでとうございます。9月に卒業する君たちには、きっと3月に卒業した人たちよりも、はるかにたくさんの物語があるに違いありません。海外留学をした人もいるでしょう。アルバイトをした人もいるでしょう。勉強をした人もいるはずです。君たちは、自分の物語を作るために、他の人にはない時間を、持つことができました。その経験は、必ず君たちを強くしてくれたはずです。
私はいつもこんなふうに考えてきました。人生は直線ではない。目の前にまっすぐ登る道もあるが、ぐるっと迂回して、横道に入りながら、山の頂を目指すこともできる。同じ目標に向かうのであれば、知らない道を、迂回する道を歩いた方が人生はずっと豊かで、語ることが出来る物語を持つことができます。

なによりもそれは、自分自身を見つめる時間であり、人間はひとつではないことを知る時間でもあります。たくさんの生き方があることを知る時間です。そして、自分と同じように、様々な生き方をする他者を理解する時間です。

君たち自身が他者とは異なる道を歩いたと同じように、世界には違う生き方をする多くの人々がいます。それを理解する時間をきっと皆さんは持つことができたはずです。この世界は、あるいは人生は、無数に異なる生き方や価値観を持つ者の集合体なのです。見た目の違いを越え、多様な価値観を人々が理解し合うことがなければ、ただ無意味な対立と憎しみだけしか残りません。

私たちには異なる人々の歴史を理解することが求められるし、また日本自身の歴史を理解することも求められるでしょう。例えば、私たちにとって今とても悲しむべきことは、韓国と日本との関係が極めて厳しい状態にあることです。このことについて私は、一番大事なことは、やはり日本の歴史を知り、韓国・朝鮮の歴史を知ることであり、そこに異なる考え方を持った人々がいることを知ることが必要であると思います。私は日本と韓国の問題を考えるときに、明治大学の教員として常に浮かんでくることがあります。それは第二次世界大戦前、明治大学出身の法律家であった布施達治という法律家がどういう役割を果たしたのかということを私は常に思い起こします。布施達治さんは明治大学法律学部を卒業して弁護士になりました。そして彼は、日本における朝鮮独立運動の学生たちを弁護する弁護士として活躍しました。また当時、第二次世界大戦前、朝鮮に渡って朝鮮独立運動の集会でも発言をしています。彼の中には当時の「民族自決」という考え方がありました。民族は自らのことを決定する権利があるという国際連盟の発想です。そのもとに彼は朝鮮独立運動を支持しました。しかしそのために布施達治は、2回にわたって治安維持法違反の罪に問われ、2回にわたって弁護士資格をはく奪されています。にもかかわらず布施達治は一貫して、日本における朝鮮独立運動の学生たちを弁護しました。朝鮮の学生たちはまさか日本人弁護士が自らを弁護してくれるとは思ってもいなかったので、裁判所の場でそのことに感動して号泣したという記事が残されています。

また、この布施達治と同じように、日本の民藝運動のリーダーであった柳宗悦という人がいます。彼は朝鮮の李朝の白磁、陶磁器の美しさを発見した日本人としてとても有名ですし、日本の民藝運動を指導した極めて高名な美術批評家でありました。柳宗悦は何回にもわたって朝鮮における日本の支配を批判し、それが朝鮮の文化を破壊していることを批判しました。そして日本人に対して、理性的に朝鮮の歴史を理解し、朝鮮の文化を尊重するようにと訴えました。つまり、第二次世界大戦下にあっても日本人の中にはやはりきちんとした朝鮮への理解を持った者がいて、また布施達治のように朝鮮独立運動を支援し、その学生たちを弁護した法律家もいたのです。

私は現在の日本と韓国の関係を考えると、やはりかつて明治法律学校を卒業した弁護士が朝鮮の独立運動のために働いたことの意味をもう一度噛みしめて、日本と韓国との間の関係について理解することが必要であると思います。残念ながらまだ日本の中ではそういうきちんとした理解の道は開かれていないけれど、しかし明治大学の卒業生として、みなさんはぜひ日本と韓国の関係だけではなくて、日本と世界との関係についてきちんとした理解を持った上で、異なる考えを持った者たちをきちんと理解する、そういう学生としてこれからも生きていってほしいと強く思います。それはまさに君たち自身が自分自身を見つめることでもあります。君たち自身の歴史を見つめることです。まさに君たちはこの9月卒業をする学生として多くの経験をし、君たちだけの物語を持っています。それはまさしく他者の物語、他者の異なる人間たちの物語を理解する力が君たちに備わっていることを意味していると思っています。

今日、君たちは明治大学を卒業する。君たちがこれからも、毅然として、そしてまっすぐに背筋を伸ばして生きて行くためには、明治大学の建学のスピリッツである、「権利・自由」「独立・自治」という言葉をいつも思い起こしてほしい。恐らく布施達治は朝鮮の「民族自決」ということを考えた時に、この明治大学のスピリッツである「独立・自治」ということがきっと背景にあったと思います。自分であれ、他者であれ、その「権利・自由」を認め、自らまっすぐに生きるというこの精神です。

これからはもっと多くの物語が君たちを待っている。人生はけっこう良いものだと思います。この世界の可能性と豊かさを胸いっぱいに抱いて、生きてほしい。そして、もし打ちのめされるときがあったら、この大学の教室に一人座ってみてもいいかもしれない。明治大学はいつも君たちの場所です。社会への出発の場所であり、羽を休めに帰ってくる場所でもある。

卒業おめでとう。そして君たちの人生に幸あれを祈ります。


Many congratulations to all of you.
Dear Parents and Guardians, I extend my sincere congratulations on your son’s and daughter’s graduation from Meiji University.
I wish you all for your future success in Japan and all over the world.
Congratulations!



 

2019年9月19日
学長 土屋恵一郎