Go Forward

学長室

全国校友石川大会祝辞

2018年09月30日
明治大学 学長室

全国校友石川大会が盛大に開催されますこと、心よりお祝い申し上げます。また、本大会が無事に迎えられたのも、石川県校友会員をはじめとする多くの関係者の皆様のご尽力の賜物であります。心より敬意と謝意を表します。

石川県金沢市には、住んだこともなく度々訪れた場所でもないのに、親戚がいるような近しさを覚えるのは、「吉田健一」という作家のおかげです。吉田健一は、政治家吉田茂の子供ですが、翻訳家として知られており、英国文学の批評家でもありました。ちょうど、私が大学院生であったころ、雑誌「ユリイカ」に連載された「ヨオロッパの世紀末」で、突然ブレークして次々と本を出版しました。私は当時、出版社にかけ合い著作集を手に入れたり、神保町の食堂「ランチョン」で編集者と打ち合せをしながら、紅茶にダブルのウィスキーを入れて、お昼からケラケラと笑う吉田健一を見に行ったりするほど熱中していました。その吉田健一の小説の一つに「金沢」があります。犀川の周りを歩きながら小説「金沢」のなかに入り込むことが、30代の楽しみでした。

このような学生時代を過ごせたのは、私が、明治大学の学生であったからです。明治大学には、東京と金沢を結びつけ、学生を引き寄せる、磁力があります。最近はこうした磁力が弱まって、明治大学が全国大学としての役割を失っていることは、これから解決しなければならない課題の一つです。現在、本学は各地方からの学生の割合が3割ほどで、約7割は首都圏一都三県の学生となっています。この事実を無視して、政府は、東京23区への学生集中を避けるためと称して、23区の大学の定員増を今後10年間は認めないという法案を国会に提出し、可決されました。この法律によって、23区の大学は新学部を作るなどの新しい試みはできなくなります。現在の政府による大学政策、文教政策は構想力を欠いた、その場しのぎのものになっていると言わざるを得ません。「有職者会議」という愚者の宴によって、安倍政権は大学のエネルギーを奪っていくことでしょう。

本来の大学の力を発揮するためには、国からの補助金に頼らない財政基盤を構築する必要があります。それが、本学の建学の精神である『独立自治』の意味です。補助金なしで大学を運営する覚悟を持たなければ、大学は自由と独立を獲得できないでしょう。いずれにしても、明治大学に全国から来てもらうために、地方からの学生への豊かな奨学金が必要です。また、再三話してきましたように、地方を主体にした校友子弟推薦入学制度を作る必要があります。校友、とりわけて、地方の校友の子弟を入学させることによって、明治大学のレガシーを繋いでいかなければなりません。大学と校友との信頼関係をさらに強化しながら、明治大学の全国大学としての力と存在感を強めていきたいのです。
ここ石川県金沢市で150周年を見据え、今後の明治大学のあるべき姿を皆様と共に語り合えることに喜びを感じています。校友の皆様に心より感謝申し上げます。