Go Forward

プレスリリース

ユーグレナ培養時のエタノール添加は、 バイオマス・有用物質の生産量向上に加えて、細胞の回収効率も 向上させることを明らかに 明治大学大学院農学研究科 髙橋優・小山内崇准教授らの研究グループ

2023年04月17日
明治大学

ユーグレナ培養時のエタノール添加は、
バイオマス・有用物質の生産量向上に加えて、細胞の回収効率も
向上させることを明らかに
明治大学大学院農学研究科 髙橋優・小山内崇准教授らの研究グループ
明治大学大学院農学研究科 環境バイオテクノロジー研究室の髙橋 優(博士前期課程2年)、小山内 崇准教授らの研究グループは、真核微細藻類 Euglena gracilis (ユーグレナ)の明好気条件での培養時にエタノールを添加すると、ユーグレナの沈降速度が向上することを明らかにしました。

<研究成果のポイント>
  • ユーグレナは、様々な有用物質を作ることから、産業化が進められています。しかしながら、細胞生産のコストが高く、コストを下げるために細胞回収法の検討が必要でした。
  • エタノールを添加してユーグレナを培養すると、細胞・パラミロン生産量の向上に加えて、細胞の沈降速度が向上することが分かりました。
  • 本研究の成果から、ユーグレナの細胞生産におけるエタノール利用、及び、重力沈降法による回収の有用性が期待できます。

要旨

ユーグレナは、淡水中に広く分布する真核微細藻類です注1)。医薬品、化粧品、化成品、健康食品、養殖など様々な分野での利用が見込まれる独自の貯蔵多糖であるパラミロンやバイオ燃料の原料に使用できる貯蔵脂質であるワックスエステルをはじめとした様々な有用物質を合成、蓄積する生き物です。しかしながら、細胞の生産コストの高さが課題として残っています。ユーグレナを工業的に利用するためには、培養液からの細胞回収が必要ですが、微細藻類の培養液は希薄であるため、細胞回収にはコストや手間がかかります。微細藻類の回収方法としては、遠心分離法、膜ろ過法、重力沈降法、凝集法、泡沫分画法などがあります。これらの方法の中でも重力沈降法のメリットとしては、凝集などによって細胞の用途を制限しないという点や低コストかつ特別な設備も不要という点があげられます。しかしながら、細胞回収効率が低いという大きなデメリットを持ちます。そこで、本研究グループは、細胞を沈みやすくすることで、重力沈降法の回収効率を上げることができれば、ユーグレナの回収がより容易に低コストで可能になると考えました。本研究では、細胞生産量や有用物質であるパラミロンの生産量が多くなるエタノールを添加した培養法を用いてユーグレナを培養し、これらの利点を持ちながらも、沈降速度が速く、回収効率の良いユーグレナの生産を目指しました。
E. gracilis NIES-48株を0、0.5、1.0、2.0%の4種類のエタノール濃度で培養し、細胞の沈降の様子を観察したところ、沈降の速度は0.5、1.0% EtOH条件で最も速くなることが明らかになりました (図1)。また、これらの2条件でバイオマス量、パラミロン生産量も先行研究と同様に向上しました。この際に、細胞の平均径、1細胞あたりの乾燥重量、細胞内パラミロン含有率、細胞形態、細胞の運動性に違いがみられたことから、細胞の沈降速度にこれらの要素が影響をもたらす可能性が示唆されました (図2)。
 
本研究は、明治大学大学院農学研究科 髙橋 優(博士前期課程2年)、小山内 崇准教授らのグループによって行われました。本研究は、明治大学と株式会社ユーグレナと理化学研究所微細藻類生産制御技術研究チーム(鈴木健吾チームリーダー)の共同で行われたものです。JST戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発ALCA、JSPS科研費基盤B(代表小山内崇)の援助により行われました。
本研究成果は、2023年3月21日に国際誌「Applied Microbiology and Biotechnology」に掲載されました。

研究グループ

明治大学 大学院農芸化学科 環境バイオテクノロジー研究室
 准教授 小山内 崇(おさない たかし)
 博士前期課程2年生 髙橋 優(たかはし ゆう)
 博士前期課程2年生 島本 航輔(しまもと こうすけ)
 
株式会社ユーグレナ
理化学研究所 微細藻類生産制御技術研究チーム(2023年3月31日でチーム設置終了)
 鈴木 健吾(すずき けんご)
 豊川 知華(とよかわ ちはな)

1.背景

世界人口の増加や化石燃料の枯渇は、食糧とエネルギーの不足に繋がります。そのため、食糧やエネルギーを持続的に供給する資源を見つけることが求められています。この資源として、増殖が速く、生育が土壌肥沃度に依存しないというメリットを持つ微細藻類が注目されています。本研究では、微細藻類の中でも、Euglena gracilis (ユーグレナ)に注目しました。ユーグレナは、細胞壁を持たない淡水中に住む生き物で、酸素発生型の光合成を行う植物のような性質とより適した環境に移動する動物のような性質の両方を兼ね備えています。ユーグレナは、貯蔵多糖パラミロン、色素、アミノ酸、脂肪酸などの有用物質を合成蓄積します。このような有用性の高い生物であるユーグレナを産業利用するには、細胞回収が必要ですが、培養液のバイオマス濃度は低く、効率的な回収が求められています。微細藻類の回収方法としては、遠心分離法、膜ろ過法、重力沈降法、凝集法、泡沫分画法などが知られています。本研究では、細胞回収法の中でも、細胞へのダメージが少なく、低コストで、特別な設備も不要というメリットと細胞回収効率が悪いというデメリットを持つ重力沈降法に注目しました。
重力沈降法の回収効率を向上させるために用いたアプローチは、エタノールを添加したユーグレナの培養です。ユーグレナは、エタノール、グルコース、ピルビン酸、コハク酸、酢酸、グルタミン酸、リンゴ酸、乳酸などの様々な物質を外部炭素源として利用できます。エタノールは、比較的入手が容易で、ユーグレナの培養の際にエタノールを添加すると、細胞生産量やパラミロン生産量が向上することが先行研究から分かっています。エタノールは、ユーグレナの培養の際、よく利用されますが、エタノールは細胞の沈降にどのような影響をもたらすのかは明らかになっていませんでした。そこで、本研究では、低濃度のエタノールを用いた培養により、ユーグレナ細胞の重力沈降が改善されることを実証しました。

2.研究手法と成果

本研究グループは、Euglena gracilis NIES-48株を、0 (コントロール)、0.5、1.0、2.0%の4種類のエタノール濃度を含んだCM培地で8日間培養しました。培養は、1% (v/v)のCO2 (in air)を培地にバブリングし、温度は25℃、光条件は12時間明条件 / 12時間暗条件となるように設定して行いました。
エタノールを添加しないコントロール条件とエタノール条件を比較すると、エタノール条件で培養したユーグレナは約3.6倍生育が向上しました。
このようにして生育させたユーグレナ細胞を用いて細胞の沈降速度を画像解析によって調べたところ、0.5% EtOH条件では、沈降開始60分後に約97%の細胞が沈降しました (図1)。また、1.0% EtOH条件では、60分後に約100%の細胞が沈降しました (図1)。それに対して、Control条件では、静置を開始してから24時間後に、約71%の細胞が沈降することが分かりました (図1)。0.5% EtOH条件、及び、1.0% EtOH条件の沈降速度の結果は、先行研究と比較して、同等の値となりました。
次にこのような現象が見られた原因を調べるために、細胞の大きさ、乾燥重量、細胞内パラミロン含有率、細胞形態、細胞の運動性を調べました。その結果、細胞の平均の大きさは、0.5、1.0% EtOH条件で大きくなりました (図2)。また、1細胞あたりの乾燥重量は、0.5% EtOH条件のみコントロールと比較して重量が重くなりました (図2)。細胞内パラミロン含有率は、全てのエタノール条件下でコントロール条件と比較して多くなりました (図2)。細胞形態は、エタノール条件で培養したものは、球形や楕円形に近い形の細胞が多かったのに対し、コントロール条件では、長細い形態をしている細胞が多くなりました (図2)。また、タイムラプスの結果から、バイアル瓶内にて、コントロール条件のみユーグレナ細胞の対流が見られることが分かりました。
これらの結果から、ユーグレナでは、エタノールを加えて培養することで、重力沈降により迅速に細胞を回収できることが示唆されました。また、沈降速度に違いが出た条件間で、細胞径の平均値、1細胞あたりの乾燥重量、細胞内パラミロン含有量、形態、運動性などいくつかの因子が変化したことから、これらの要素が沈降速度に影響を与えている可能性を考えました (図2)。

3.今後の期待

本研究では、エタノールを用いることで、ユーグレナ細胞を迅速に回収できる可能性があることを示しました。ユーグレナをエタノールで培養すると、細胞収量や有用物質であるパラミロンの生産量が向上するだけでなく、特別な処理をしなくても重力を利用して細胞を回収することができます。これは、より価値のあるバイオマスを得ることや、収穫・バイオマス生産の低コスト化につながると考えられます。しかしながら、これらの結果は、E. gracilis NIES-48を利用し、実験室規模の実験で立証されたものであるため、幅広いユーグレナ種の利用や大規模培養での研究を進めていく必要性があります。

4.論文情報

<タイトル>
Gravity sedimentation of eukaryotic algae Euglena gracilis accelerated by ethanol cultivation
(日本語タイトル エタノール培養により促進される真核藻類Euglena gracilisの重力沈降)
<著者名>
Yu Takahashi, Kosuke Shimamoto, Chihana Toyokawa, Kengo Suzuki, Takashi Osanai
<雑誌>
Applied Microbiology and Biotechnology
<DOI>

5.補足説明

学名は、Euglena gracilis。真核微細藻類の一種です。藻類と捕食性の真核生物が共生する二次共生によって生まれた生物です。植物、動物両方の特徴を持ちます。

参考図


図1. ユーグレナの沈降の様子
エタノールを添加してユーグレナを培養すると、細胞の沈降速度が向上します。沈降の速さは、速い方から0.5% = 0.1% > 2% > Controlとなりました。


図2. エタノールを添加した培養により生じた変化
沈降の速さがコントロールと0.5% EtOH、1.0% EtOH条件間で、細胞の平均径、細胞内パラミロン含有率、細胞形態、運動性に変化が見られました。1細胞あたりの重さは、コントロールと0.5% EtOH条件間で差が見られました。
お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

明治大学 大学院農学研究科 
環境バイオテクノロジー研究室
准教授 小山内 崇(おさない たかし)
TEL:044-934-7103
FAX:044-934-7103

取材に関するお問い合わせ

取材お申し込みフォームから必要事項をご記入のうえ、送信してください。
取材お申し込みフォーム
問題なく送信された場合、お申し込み完了をお知らせするメールが自動送信されますのでご確認ください。
お急ぎの場合は、電話でもご連絡ください。

明治大学 経営企画部 広報課
TEL:03-3296-4082
MAIL:koho@mics.meiji.ac.jp