明治大学黒川農場は、株式会社ユーグレナ、戸田建設株式会社、株式会社DAインベント、株式会社ルートレック・ネットワークス、Office FUJIWARAの6社共同で、ユーグレナ(Euglena、和名ミドリムシ)を原料とした有機液肥でイチゴ栽培に成功しました。
ユーグレナの水熱分解液肥でイチゴ栽培に成功
有機液肥とは有機物を原料とした液体肥料のことで、高温・高圧条件で処理する方法を用いて製造したものが水熱分解液肥です(下記の「水熱分解液肥とは」参照)。植物性原料では有機酸が生成されて作物生育に有害であること、動物性原料では分離される油脂の取扱いが難しいことが、水熱分解液肥の課題でした。
そこで、植物と動物の両方の性質を有するユーグレナに着目しました。(株)ユーグレナが、ユーグレナからバイオ燃料を抽出した後の残渣を提供し、これを原料として、2018年度に明治大学黒川農場で水熱分解液肥(ユーグレナ液肥)を製造、植物性原料から製造した水熱分解液肥、従来の化学肥料の液肥(化学液肥)と比較する研究を実施しました。その結果、ユーグレナ液肥は、作物生育に及ぼす有機酸の被害がみられず、多くの作物に適用できることから、極めて有望なことが判明しました。
そこで2019年度に、戸田建設(株)が茨城県常総市で運営する「TODA農房(のうぼう)」で、ユーグレナ液肥の効果を実用規模のイチゴ栽培で検証しました。その結果、化学液肥と比較して、収量、糖度に差がないことを確認しました。この研究で、(株)DAインベントがユーグレナ残渣の水熱分解方法、(株)ルートレック・ネットワークスが液肥の供給方法の技術開発を担当し、Office FUJIWARAが長年の研究に基づく知見の提供と技術指導を行いました。
水熱分解液肥とは
密閉タンク内で、高温・高圧下で水の力により有機質を分解して製造する液肥を、水熱分解液肥と呼びます。堆肥化では数カ月かかっていた有機性廃棄物の分解が、この方法では1時間で可能となります。明治大学黒川農場では、文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の助成を受け、2013年から野菜残渣、生ごみなどを水熱分解して、液肥として作物栽培に利用する研究を進めてきました。
今後の研究
野菜(農学ではイチゴも野菜として扱います)の生育は、植付け直後から有機酸を含む液肥を供給すると大きく阻害されます。しかし、植付けから1-2週間、有機酸を含まない化学液肥を供給した後、有機酸を含む水熱分解液肥を供給しても被害はほとんどでません。この現象の説明に参考となる既存の研究報告は見当たらず、メカニズムは未解明です。ユーグレナは貴重な資源です。はじめに化学液肥の替りにユーグレナ液肥、その後に野菜残渣や生ごみを原料とする液肥を供給することで、化学液肥を減らし、食材の廃棄物を有効に利用する技術の確立が期待できます。
参考文献
特集 水熱分解技術の農業利用の可能性、JATAFF ジャーナル7(11)、59pp、農林水産・食品産業技術振興協会(2019) 三浦玄太、喜多英司、イチゴ高設栽培における排液削減技術の検討、日本農業気象学会2020年全国大会講演要旨 PB-28(2020)
ご注意:水熱分解液肥、ユーグレナ採油残渣は、まだ研究段階で市販されていません。