窒素施肥が植物をリン酸欠乏から救うメカニズムを解明 -オートファジーの活性化が生育に寄与-
2020年12月09日
明治大学
窒素施肥が植物をリン酸欠乏から救うメカニズムを解明
-オートファジーの活性化が生育に寄与-
-オートファジーの活性化が生育に寄与-
要点
○リン酸欠乏生育下の植物に窒素過剰施肥するとリン酸欠乏ストレスが軽減
○栄養に応答したオートファジー誘導がリン酸欠乏ストレス回避には重要
概要
研究グループはリン酸欠乏下で生育したシロイヌナズナ(用語2)で起こる著しい生育抑制が、同時に窒素を過剰に与えると軽減されることを発見。これを解析した結果、生育培地中のリン酸濃度が低下した状態で、窒素に対する炭素(糖)の濃度比を低下させると、葉緑体の一部分解を伴うオートファジーが活性化され、その分解で生じたリン酸がリン酸欠乏下の植物生育を回復させることが明らかになった。
今後、植物生育におけるリン酸、窒素、炭素の栄養バランスがもたらすオートファジー誘導の制御メカニズムを明らかにすることで、新たな栄養欠乏応答のメカニズム解明および栄養欠乏耐性植物の作出方法の開発が期待される。
研究成果は米国科学誌「Plant Physiology(プラント・フィジオロジー)」のオンライン版に12月4日(現地時間)付けで掲載された。
研究成果

さらにオートファジーに関するシロイヌナズナ形質転換体および欠損変異体の解析により、リン酸欠乏条件下で生育させた植物に窒素を過剰に施肥すると、葉緑体の一部を分解するオートファジー(RCB-mediated chlorophagy)が誘導され、その結果、細胞内リン酸濃度が上昇してリン酸欠乏ストレスが回避されること、オートファジー欠損変異体ではリン酸欠乏生育下で窒素を過剰に施肥しても、生育の回復は起こらないことが明らかになった(図2)。

また、リン酸欠乏下で窒素過剰施肥した場合、炭素欠乏応答遺伝子の発現量が増大しており、このオートファジーの誘導は、植物生育培地中のリン酸濃度が低く、かつ糖(炭素)濃度と窒素濃度の比(C/N比)が低くなる場合に特に顕著に起こることがわかった。これらの結果から、植物生育におけるリン酸欠乏ストレス応答の誘導は、生育環境中のリン酸濃度の低下によってのみだけでなく、同生育環境中の窒素と炭素の濃度比からも大きな影響を受けることがわかった。
背景
前者については国内外での研究が広く進められている。一方、後者については、膜脂質転換やオートファジーの寄与が明らかになってはいるが、それらの分子レベルでの制御メカニズムについては不明な点が多い。また近年、植物のリン酸と窒素の栄養応答が密接に関連していることは示唆されているが、全容解明には至っていない。
研究の経緯
本研究に関する各研究機関の役割
東京工業大学(代表研究機関) | 研究のコーディネート、オートファジーの顕微鏡観察の一部とその他の実験全般の実施 |
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理化学研究所 | オートファジーの顕微鏡観察と実験結果の考察 |
明治大学 | オートファジーの顕微鏡観察と実験結果の考察 |
今後の展開
今後、土壌で生育した植物についても同様の影響が見られるのか、またその場合、与える最適な窒素の濃度、窒素施肥の時期や期間について研究を展開することで、持続可能な植物の育成につなげられることが期待できる。
用語説明
(2)シロイヌナズナ: 陸上植物の一種。遺伝子解析が終了しており、遺伝子改変を行うことができるため、モデル植物として研究に用いられる。
(3)膜脂質転換: 植物のリン酸のリサイクル機構の一つ。植物は生体内の膜を構成する脂質のうち、リン酸を含む脂質を分解し、その代わりにリン酸を含まない脂質が合成され、代替を行う。
(4)オートファジックボディー:オートファジーによって液胞に輸送された分解対象物。液胞分解を阻害することによって観察することが出来る。
論文情報
論文タイトル:RCB-mediated chlorophagy caused by oversupply of nitrogen suppresses phosphate-starvation stress in plants
著者:Yushi Yoshitake, Sakuya Nakamura, Daiki Shinozaki, Masanori Izumi, Kohki Yoshimoto, Hiroyuki Ohta, Mie Shimojima
DOI:10.1093/plphys/kiaa030(本掲載後)
- お問い合わせ先
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問い合わせ先
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授 下嶋 美恵
Email:shimojima.m.aa@m.titech.ac.jp
TEL:045-924-5527
FAX:045-924-5527
理化学研究所 環境資源科学研究センター分子生命制御研究チーム 上級研究員 泉 正範
Email:masanori.izumi@riken.jp
TEL:048-467-9512
FAX:048-462-1318
明治大学 農学部生命科学科 准教授 吉本 光希
Email:kohki_yoshimoto@meiji.ac.jp
TEL:044-934-7039
FAX:044-934-7039
明治大学 農学部生命科学科 助教 吉竹 悠宇志
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