明治大学 商学部の奈良沙織教授は、取締役会に占める社外取締役の比率が高いほど、企業のディスクロージャーが良いということを解明しました。2015年のコーポレートガバナンス・コード適用以来、日本では上場企業が社外取締役を積極的に登用しており、本研究はこうした取り組みの効果をデータで実証的に明らかにしたものです。社外取締役については、2021年6月施行の改訂コーポレートガバナンス・コードでも積極的な活用が議論されており、本研究はこうした取り組みを進める企業や投資家へ重要な示唆を与えると考えられます。
研究の背景
日本では2015年にコーポレートガバナンス・コードが適用されたことにより、上場企業では社外取締役の導入が進んでいます(図表1)。社外取締役の役割には監督(モニタリング)と助言(アドバイス)が挙げられ、理論的には社外取締役の監督と助言は取締役会の合理的な意思決定を促すことから企業価値を向上させるとされます。しかし、国内外の研究では社外取締役が企業パフォーマンスを向上させるという研究もあれば、明確な効果は確認されないとする研究もあり、社外取締役が企業パフォーマンスに及ぼす効果は必ずしも明確ではありません。一方、海外の研究では、十分な情報がないと社外取締役は監督や助言の役割を果たせないことから、経営者がディスクロージャーを拡充するため、取締役会に占める社外取締役の比率(社外取締役比率)が多いほど企業のディスクロージャーが良くなることが分かっています。しかし、日本で社外取締役の導入が進んだのは最近であり、社外取締役導入の効果をデータで実証的に明らかにした研究は十分にないのが現状です。
本研究の成果と意義
そこで、本研究では日本の取締役会構造の特徴と近年の制度変化に着目し、社外取締役比率と企業のディスクロージャーの関係について分析を行いました。分析の結果、社外取締役比率が高いほど、企業のディスクロージャーが良いことが明らかになりました。さらに、ディスクロージャーの内容として、①経営陣のIR姿勢等、②説明会等、③フェアディスクロージャー、④コーポレートガバナンスに関するディスクロージャーに着目し、これらと社外取締役比率との関係についても分析しました。この結果、全ての項目において社外取締役比率が高いほどディスクロージャーが良いことが明らかになりました。こうしたことから、近年の社外取締役を積極的に登用する取り組みは企業のディスクロージャーを全般的に向上させることにつながっており、投資家にとって好ましい情報環境を醸成していると考えられます。
2021年6月から施行された改訂コーポレートガバナンス・コードでは、独立社外取締役比率の引き上げや取締役のジェンダーや国際性といった多様性についても議論されています。本研究の成果はこうした企業が取り組むべき課題に対して一定の示唆を持つものと考えられます。なお、本研究成果は証券アナリストジャーナル12月号に掲載されています。
論文の情報
奈良沙織、2021年、「社外取締役比率と企業のディスクロージャー」
『証券アナリストジャーナル』第59巻第12号109-119ページ