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学生相談室

「相談室の窓から」~「私だけ」と「私だけじゃない」~

2016年05月20日
明治大学

「私だけ」と「私だけじゃない」

学生相談室 相談員
文学部准教授 福間具子

 

私は今、三歳の男の子の育児中です。最近、その中で気づいたことがあります。男三人兄弟を育てた義理の母は、私が「食が細すぎる」「滑り台を怖がる」といった悩みを話すと、「長男も二歳頃そうだった」とか「そういう子は結構いるけど三歳位で治るもの」といった、経験から知っている子供の習性を教えてくれます。そうした助言を聞くと、「うちの子だけじゃないんだ」と思い、安心することが出来ます。他方、男の子の育児経験はないものの、長く教師をしていた実の母は、息子を見て「この子は負けん気が強いところがあるからそこを大事に伸ばしてあげないと」「怖がりなのは想像力が強いからだろう」など、どちらかと言うと「個性」を見つけようとする傾向があります。

二人の話を聞いていると、人には「その子だけではない性質」と「その子にしかない性質」という二つの側面があることがわかります。育児をしていると、ある行動がどちらに属するのかわからず悩むことがあるのですが、多くの子供を見てきた経験者の助言は、それを明らかにしてくれるのでとてもありがたいです。学生相談室で1年間相談員を務め、様々な学生の悩みに接して来ましたが、そこで私たち教員が与えられる助言も、この話と少し通じるところがあるように思いました。初めての一人暮らしで生活リズムを保てない、本当は別の志望校があり不本意入学だ、ゼミが合わない、将来やりたいことが見つからない…。こうした悩みは、大学生がぶつかることの多い壁です。そんな時は集団の中で孤立しているように感じるかもしれませんが、私たち教員はそれが「あなただけじゃない」ということを知っています。過去にも同じように苦しんだ人がいて、その人たちがどのように乗り越えていったのかを話すことで、少し心を軽くしてあげられるように思います。他方で、「自分にしかないものは何か」が見つからず相談室を訪れる人もいます。それを見つけることは確かに簡単ではないのですが、相談室で対話を重ねる中で、少しずつ個性の輪郭が見えてくる時もあります。おそらく、どちらを知るためにも、他者が必要なのでしょう。相談室は、基本的には対話の空間だと私は思います。経験を積んだ人たちと接し、言葉を交わしながら、学生生活の中で、本当の自分を知って行って欲しいと思います。