Go Forward

センター主催/共催シンポジウム 2023年度

資源環境と人類2023シンポジウム『日本列島および東ユーラシアにおける細石刃石器群の展開』開催報告

 2023年は、長野県矢出川遺跡において日本で初めて細石刃が発見されて70となる記念すべき年である。矢出川遺跡の調査や整理に主体的にかかわった明治大学黒耀石研究センターと八ヶ岳旧石器研究グループでは、その記念シンポジウムを、20231111日(土)・12(日)に実施した。
テーマは、『日本列島および東ユーラシアにおける細石刃石器群の展開』で、以下の発表と講演があった。会場には、両日それぞれに100名ほどの参加者があった。

基調講演(稲田氏)

日時:20231111日(土)93016:10
          1112日(日)9301600
会場:明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント1F グローバルホール
主催:明治大学黒耀石研究センター・八ヶ岳旧石器研究グループ
予稿集はダウンロードフリーとした。


プログラム

11月11日(土)
930940 挨拶・趣旨説明池谷信之(明大黒耀石研究センター)
9
401010 研究発表・小石刃生産と細石刃生産をめぐって堤 隆(明大黒耀石研究センター)
10
101040 研究発表・細石刃の作り方-西北九州における縄文草創期初頭の細石刃技術に関する動作連鎖の概念に基づく石器技術学分析大場正善(山形県埋蔵文化財センター)
11
001200 基調講演・日本列島の細石器と細石刃田村 隆
13
001400 基調講演・コロニーの形成、なぜ湧別集団だけなのか稲田孝司(岡山大学名誉教授)
14
001430 研究発表・北海道南西部における細石刃石器群研究の進展-地域差を考えるための予察高倉 純(北海道大学)
 14
40 1510 研究発表・神奈川の細石刃出現期と尖頭器諏訪間 順(黒耀石研究センター)
15
101540 研究発表・古本州島における細石刃石器群の出現と展開-西からの視点芝康次郎(文化庁)
15
401610 研究発表・内陸アラスカにおける完新世細石刃文化の変容と終焉平澤 悠(東亜大学)

11月12日(日)
  9301000 研究発表・中国細石刃石器群の展開加藤真二(奈良文化財研究所)
10001030 研究発表・朝鮮半島の細石刃石器群大谷 薫(東京都立大学・明治大学)
10
401140 基調講演・韓半島における黒曜石の原産地ネットワーク張 龍俊(韓国国立大邱博物館)
11
401220 パネルディスカッション
12
201300 ポスターセッションコアタイム
14 
001530 特別講演・古代ゲノムからみた日本列島への人類拡散太田博樹(東京大学大学院)
15301540 質疑応答
15
40~     閉会挨拶堤 隆

特別講演(太田教授)

紙上発表 
神津島産黒曜石の海上運搬、そして集住と散開池谷信之(明大黒耀石研究センター)
北方系社会集団が海を渡った時諸星良一(()東京航業研究所 文化財調査課)
近畿・中四国地方における細石刃石器群研究の課題光石鳴巳(奈良県立橿原考古学研究所)

ポスター発表
タチカルシュナイ第遺跡C地点の黒曜石原産地と水和層の解釈 …青木要祐(新潟大学)・中沢祐一(北海道大学)・佐野恭平(兵庫県立大学)・和田恵治(北海道教育大学旭川校)
東海地方西部における細石刃剥離技術と石材環境 …村井咲月(南山大学大学院)
細石刃植刃槍の投射実験と衝撃剥離痕跡両角太一(大正大学大学院)
山形県大石田町角二山遺跡における珪質頁岩製細石刃の剥離技術-東北大学考古学研究室発掘調査資料を中心に金 彦中(東北大学大学院)
北方系細石刃石器群の南下経路と荒屋遺跡の位置-魚沼から信州・関東へ …加藤 学(新潟県)埋蔵文化財調査事業団)

シンポジウムの展開
日本列島および東ユーラシアにおける細石刃石器群の展開と幅広くテーマをもち、問題設定は各発表者にゆだねたが、結果的には以下のいくつかの論点で比較的まとまりのある構成内容になった。
 まず第1点が、細石刃石器群の出現の問題で、堤による小石刃生産と細石刃生産をめぐる問題提起と、さらには田村による日本列島の細石器と細石刃についてと論議が及んだ。
 第2点は、細石刃集団の移動あるいは植民に関する問題で、稲田は、コロニーの形成はなぜ湧別集団だけなのかと問い、諸星は北方系社会集団が海を渡った時について議論する。加藤は、北方系細石刃石器群の南下経路と荒屋遺跡の位置を考察する。一方、池谷は資源獲得の在り方から、神津島産黒曜石の海上運搬そして集住と散開について触れた。さらには遺伝的系統性にも視座が広がり、太田による古代ゲノムからみた日本列島への人類の拡散に関する特別講演へと続いた。最近の大きなトレンドである古代ゲノムの講演は、一般にも開放され、多くの考古学ファンも会場を埋めた。
 第3点は、細石刃石器群の地域様相論である。列島内では、北海道南西部(髙倉)、相模野(諏訪間)、東海(村井)、近畿・中四国地方(光石)、西南日本(芝)の諸地域について、石材環境や製作技術、石器組成などのテーマで議論がなされた。さらには、韓国での様相(大谷)や黒曜石ネットワーク(張)、中国(加藤)、アラスカ(平澤)などでの細石刃石器群の展開と広く周辺大陸にも話が及んだ。

研究発表(大谷氏)

 4点は、細石刃石器群に関する実験考古学的アプローチである。西北九州(大場)、東北地方(金)における細石刃の剥離技術に話題が及んだ。また、植刃槍の投射実験と衝撃剥離痕跡などのテーマ発表(両角)もなされた。このほか、黒曜石水和層に関する発表もあった(青木ほか)。
 今回のシンポジウムでは、オーラルセッションの他に、ポスターセッションも設けたが、東北・大正・南山などの大学院生の参加もあり、若手の良い発表の場となった。また、シンポジウムの最後には、オーラルの発表者を中心に会場の意見も拾いつつ、パネルディスカッションがなされた。今後の細石刃石器群研究、あるいは旧石器研究の展望に関する話題が取り上げられ、有意義な議論が展開されたと考えられる。

ポスター発表(村井氏・金氏)