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論壇 研究を通じた教育の重要性 研究活用知財本部長 長嶋 比呂志

研究力の高い大学としての地位確立をめざす本学の取り組みが、着実に実を結びつつあることは、科研費を含む外部研究資金獲得額の、近年の顕著な増加傾向に現れていると言えよう。科学技術立国としての我が国を支え、さらに世界に情報発信し得る大学として、質の高い研究活動を永続的に営むことが、本学のこれからの課題だろう。

研究にはヒト・モノ・カネが必要である。カネ、つまり外部研究資金の獲得については、教員の努力を職員が強力にサポートする体制を、研究活用知財本部、研究企画推進本部、研究知財事務室が一体となって推し進めている。一方、モノの中で一番重要な研究スペースについては、絶対的な不足の状態にあることは、学内の共通認識であろう。この点については、大学としての取り組みを望むと同時に、学部・学科単位での改善努力も不可欠であると思う。

さて、ヒトである。研究活動は人によって営まれるという自明のことから、本学の研究力の向上・維持のためには、継続的な研究人材の育成が重要であることを再確認したい。ポスドク等の専従の研究員数が少ない本学においては、研究の多くの部分が学生によって行われているが、その学生に変化が見られるのである。ここ数年の学生の特徴として、研究のレールを敷いてやると素直に真面目に取り組むが、方向だけ示して自分で考えさせると、途端に行き詰まってしまうという傾向が見られる。これは学力低下とは別種の、物事の推進力や、いわゆる仕事力の低下という現象であり、本学だけの問題ではないようである。とすればこのことは、本学の研究力に対する影響にとどまらず、社会・産業・科学技術を支える将来の人材基盤に対しても、深刻な問題を投げかけることになるだろう。近年の本学受験生の増加を喜ぶ反面、これからの人材育成に対する危機感を覚えるのが正直なところである。しかしこの状況を、大学教育、それも研究を通じた高次元な教育の重要性を再認識する好機と捉えたい。

研究を通じて、困難を乗り越える力や職業人意識の萌芽を育て、さらに職業倫理から生命倫理観に及ぶ形而上的な思考習慣を養うことは、大学教育の最大の価値であろう。研究に没頭し、失敗や成功を重ねる中で培われた総合的な人間力は、How to主体の教育からは決して得られないものである。学生の本気を引き出すような、魅力的な研究基盤を確立することが、学生に質の高い教育を提供するために不可欠である。研究力は、単に大学のステータスを示すために重要なのではない。高度な研究と一体になった高次元の教育が受けられる場として、本学が認知されるようになった時こそ、本学が研究大学としての地位を確立し得たことになるであろう。

(農学部教授・バイオリソース研究国際インスティテュート代表)