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本棚 「死者の子供たち」 エルフリーデ・イェリネク 著 須永恒雄 ほか 訳 (鳥影社、2,940円)



本書の著者エルフリーデ・イェリネクはオーストリアの女性作家。2004年にはノーベル文学賞を受賞した。翻訳にして700ページ超のこの大作は、彼女の創作活動のテーマがすべて盛り込まれた、イェリネクの自他共に認める代表作である。

小説の舞台はオーストリア、シュタイアーマルク州。自然の美しい、ウインタースポーツでも有名な土地である。その地のペンション「アルペンローゼ」に3 人の「死者」があらわれる。彼らはゾンビのように何度も死んでは生き返りながら、人間の欲望をむき出しに物語を繰り広げる。

オーストリアにおける「死者」とはイェリネクにとって「ナチス時代の犠牲者たち」にほかならない。オーストリア人の多くは自国を「ナチスに最初に襲われ た国」であるとし、ナチス時代の犯罪は自分たちには関係ないと思ってきた。イェリネクはこの小説で、芸術と自然とスポーツの観光国オーストリアを、無比の 言葉遊び、メタファー、引用を駆使しながらパロディー化し、その欺瞞を糾すのである。

宗宮朋子・法学部兼任講師

(訳者は法学部教授)