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創立130周年記念式典 学長式辞 学長 納谷 廣美

本日ここに、わが明治大学が、創立130周年記念式典を挙行するにあたり、ご来賓としてご臨席を賜りました、中川正春文部科学大臣の代理・清水潔文部科学事務次官、清家篤社団法人日本私立大学連盟会長兼慶應義塾長、河田悌一日本私立学校振興・共済事業団理事長、および村山富市元内閣総理大臣・本学顧問をはじめ、ご多忙の折にもかかわらずご出席を賜りました皆様方に対し、まずもって心より感謝と御礼を申し上げます。

わが明治大学は、1881年(明治14年)、若き3人の法律家—岸本辰雄先生、宮城浩蔵先生および矢代操先生—によって、明治法律学校として創立されました。今日までに構築され、かつ継承された「光輝満つ伝統」は、この創立者たちの「近代市民社会を担う聡明な若者を育てたい」という高い志と情熱、そして幾多の先達の苦難と努力によるものと、この場をお借りして、深甚なる敬意を表したいと存じます。

ところで、この130年という歳月は、本学創立時から太平洋戦争(第二次世界大戦)の終結時までの約65年間、そして1945年の戦後から今日までの約65年間に、時代区分できます。前半の65年という期間は、わが国がフランスおよびドイツをモデルとして、近代化の旗印のもと「富国強兵」政策を推進した時期でした。また、後半の65年間は、米国をモデルとして、自由主義経済陣営の中で「奇跡的な経済復興」を遂げ、経済大国への道を歩んだ時期でした。

しかし、今年3月11日の、後に「東日本大震災」と呼称されたマグニチュード9.0の大地震と津波、およびこれに随伴した東京電力・福島第一原発の放射能漏れ事故により、今わが国は、先行き不透明な状況下に置かれています。これは、戦後一貫して、わが国が「経済復興」を追求し、社会の諸分野で展開してきた「効率化・合理化」路線に対する警告ではないかと、私は観ています。

人類が希求すべき最高位の価値は「人間の尊厳」であり、「人びとが平和裡に、かつ平等に人間らしく生きる」ことです。後ほど紹介する、シモーヌ・ヴェイユ様からのメッセージにもありますように、「勇気の背後には、必ず希望が存在している」、すなわち「いかなる状況においても、希望を持ち続ければ、人間は生きていける」のです。われわれは「希望」を持って、強まる嵐をも乗り越える気持ちで、必要な変革に挑戦すべきであると考えています。

他方で、世界は今、パラダイム・シフトの時期を迎えています。また、世界秩序の多様化・フラット化が進行する時代に入っています。このような21世紀の国際社会において、高等教育は、これまで人類が歩んできた「歴史や文化」を学ぶとともに、グローバルな視野を持って「今の社会情勢」を理解しうる、いわゆる「グローバル人材」の育成が一段と強く求められています。

本学が、創立120周年式典からわずか10年ほどしか経過しない今、改めて式典を挙行した理由のひとつが、この視点によるものです。

このたびの創立130周年記念事業は、その基本コンセプトとして「世界へ—『個』を強め、世界をつなぎ、未来へ—」を掲げていますこれは、本学が今日まで継承してきた「個の確立」を基礎とした教育方針を改めて再確認するとともに、人類の未来を見据えて「世界へ」飛び立つ人材を育成すること、この点に、本学の現時点における使命があるとの考えに基づいています。

伝統は、「堅牢な守りではなく、その内部で常にイノベーション(革新)すること」で、持続可能なものになります。

今こそ、わが明治大学の時代。現在の学生が社会で重要な地位を占め、活躍しているであろう「20年後の世界」を想定し、それに向け、いかなる困難に直面しても「前へ」の精神で人材育成に取り組んでまいりたいと存じます。

この誓いを表明して、私の式辞といたします。