高度情報化社会をむかえ、「情報」に対する人々の意識が大きく変化している。概念形成や技術面での革新が進み、今や、情報が世界や人々を大きく動かす原動力となっている。
2013年4月、中野新キャンパス開校に合わせ、新学部「総合数理学部」が誕生する。また、情報コミュニケーション学部は、2013年度から入学定員を増員する。総合数理学部、情報コミュニケーション学部の学部長に、それぞれの学部が考える「情報」に対するアプローチを研究・教育の視点から語ってもらった。
場所
駿河台キャンパス紫紺館 「ラウンジ明治」
出席者
砂田利一教授(総合数理学部長就任予定者)
石川幹人教授 (情報コミュニケーション学部長)
聞き手
歌代豊教授(経営学部、本紙編集委員)
2013年4月、中野新キャンパス開校に合わせ、新学部「総合数理学部」が誕生する。また、情報コミュニケーション学部は、2013年度から入学定員を増員する。総合数理学部、情報コミュニケーション学部の学部長に、それぞれの学部が考える「情報」に対するアプローチを研究・教育の視点から語ってもらった。
場所
駿河台キャンパス紫紺館 「ラウンジ明治」
出席者
砂田利一教授(総合数理学部長就任予定者)
石川幹人教授 (情報コミュニケーション学部長)
聞き手
歌代豊教授(経営学部、本紙編集委員)
文系と理系の垣根を外す
まず、本学10番目の学部として新たに誕生する「総合数理学部」の狙いや創設の背景について、お伺いしたいと思います。
砂田
総合数理学部は「社会に貢献する数理科学の創造・展開・発信」という理念に基づいています。広く数理科学という意味で、こういう名称をもつ学部は、我が国で初の学部となります。
まず、社会的背景として、2006年に文部科学省所轄の科学技術政策研究所の提出した報告書の題名が「忘れられた科学−数学」というものでした。数学が果たしている役割の大きさにもかかわらず、社会の中で数学というものの位置づけが不明確で、どちらかというと軽く見られている。欧米では研究所も数理科学に携わる研究者の数も多いのですけれども、日本では数理科学自体の重要性があまり認識されていない。さらに、産業の中でもイノベーションの根本にかかるところは数理科学の存在が非常に大きいにもかかわらず、それもあまり理解されていない。そういう数理科学に対する危機感があって、この報告書が出てきたのだと思います。
これまで理工学部数学科のプログラムや研究が、大学院GPやグローバルCOEという大型プロジェクトに採択されるというような状況がありました。もちろん我々の努力だけではなくて、大学全体の協力もあってこそのことでしたが、大学院教育はもちろん学部としても着実に成果を上げてきた結果と自負しています。そこで新しいキャンパスの設置に呼応する形で新しい学部をつくろうということになりました。
具体的には、「現象数理学科」、「先端メディアサイエンス学科」、「ネットワークデザイン学科」の3学科体制をつくり、数理科学と情報技術の研究・教育を行っていこうと考えました。
歌代
一方、2004年に開設された情報コミュニケーション学部は、2013年度に入学定員増を行います。
石川
情報コミュニケーション学部は、今年で9年目になり、この間に着実に志願者が増加しています。これはひとえに新しい学部のコンセプトが広く受け入れられた成果と考えています。
現代社会で重要なキーワードは「情報」および「コミュニケ—ション」です。経済学、法学、政治学、社会学、心理学、ときには理科系の生物学、人類学などというような諸学問にわたって多角的に現代社会を見つめる目を養う。それが学部のコンセプトであり教育方針の中核でもあります。
順調に学部の教育活動が評価されているということから、2013年度から入学定員を50名増員します。それに伴い入試方式をさらに充実させます。センター利用入試で新たに6科目入試を導入する上に、一般入試では「情報総合」「数学」「英語」の3科目で受験できる「B方式」入試をスタートさせます。
歌代
総合数理学部の入試にはどのような特徴があるのでしょうか。
砂田
総合数理学部も他の学部同様、一般選抜入試、全学部統一入試があり、そのほかに特別入試があります。全学部統一入試は、2つの方式があります。まず、国語、外国語、数学の「3科目方式」。それから数学、外国語、理科、数学の「4科目方式」。3科目方式の中に国語が入っているのは、数学が好きだけれども、自分は文系だと考えている受験者に積極的に受験してもらいたい。文系とか理系という垣根をなるべく外したいという気持ちからです。
情報化社会を生き抜く人材の育成
総合数理学部では「自然を解く。社会を解く。人間を解く。そして、新しい世の中を創る」人材を育てたいと思います。具体的には、数理科学と情報技術の最先端を学ぶことによって、あらゆる現象を解明する力をつける。新たなモデルをつくり、創造、発信する力を身につけさせる。発信するためにはコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力も重要です。
石川
現代社会は情報の流動性が高く変化も激しく、既存の知識を学んでもそれの有効期間が短い。情報コミュニケーション学部では、多角的な見方をもち、いろいろな知見を総合したうえで、取捨選択しながら自らの道を切り拓いていく人材を育成したいと思います。まさに、情報が中心になった現代社会を生き抜ける、自律的人間です。
日本の大学入試では、文系・理系を早めに分けてしまって、進路を狭めてしまうという問題があります。文系の中でも社会科学は数学をちょっと導入することによって、見通しがよくなるんですね。数学ができる人が社会科学にいるということが、社会科学の研究分野の底上げにつながりますので、数学ができるので文系に行くという発想もどんどん増やしていきたい。総合数理学部と情報コミュニケーション学部は、そうした文理融合の領域にそれぞれ理系と文系からアプローチしていると言えますね。
砂田
あるコンピュータ関係の大手企業のホームページに、これから何が重要な学問分野かということで「数学」があげられていたんです。数学というのはイノベーションということに対して非常に重要な役割を果たしていて、今後、幅広い分野で数理科学、数学の知識を持った人が活躍するだろうと。
多様な就職先想定
それぞれの学部で想定される進路というと、どういったところになるのでしょうか。
砂田
現象数理学科では例えば保険業などがあります。数理業務の専門職でアクチュアリーという資格があって、これは数学の知識がないと取れない資格です。それから金融関係です。株価の変動などで膨大なデータから予測をするのに一種の確率的な考え方を入れて予測をする場合でも数学が役に立っています。昔は金融関係に行く人は文系の人がほとんどだったけれども、ある時点から数学の知識を持った人材を求めるようになってきています。
先端メディアサイエンス学科の出口としては、IT産業、コンテンツ関係あるいはデザイン、メディア業界、ゲームの制作会社などを考えています。
ネットワークデザイン学科は、コンピュータ産業、情報関係の企業、あと通信業ですね。ここは、特に工学系のフレーバーもある学科ですので、電気関係にも可能性があります。いろいろなところへ人材を輩出していくイメージです。
石川
情報コミュニケーション学部は、情報、サービス、メディアの分野が多く、まさに理科系出身者が行くような情報通信企業に多く就職しています。
そういう会社では、システムをどのような形にデザインしていくと人間が使いやすいものになるかを聞き出していくところに、対人からメディアまでさまざまな水準のコミュニケーションを学んだ、我が卒業生の活躍が見込まれているのではないかなと思っています。また、旅行会社とかブライダルのような直接人間と接するようなサービス産業にかなりの人が就職しています。加えて、新聞社、放送会社、広告会社、インフラ系の会社などにも着実に就職しています。
社会を改革するのにこんな情報サービスがあるとよいという着想に対して、それを現実化できる人が身近にいる。そういう多様な人々の集まりに学部をつくり上げていきたいと思います。その点で、高校教科「情報」に興味をもった人を歓迎しています。
現在、「創造と表現」というキャンペーンを学部の中で進行させています。新しい動きをつくれる人、その中心になれる人、人を動かす力を持つ人を育てるカリキュラムをつくっておりまして、言語表現、映像表現、身体表現、造形表現などの科目によって、自分らしさをいかに表明して他者を巻き込んでいくかという技能の増進に力を入れています。
砂田
総合数理学部は数理科学を基礎とした情報技術という概念でカリキュラムを考えています。まずプログラミング、情報処理、音声・映像・画像処理、それからシミュレーション、セキュリティ、コンテンツと多岐にわたる内容について基礎から高度なものまでに及ぶような教育を考える。それによって、広く社会の中で発展に寄与する人材を育成したいと思っています。
現象数理学科では、モデルをつくり、そのシミュレーションを行って、そのモデルがちゃんと現象を説明しているかどうか調べる。そういうことを、数学を使って教育・研究します。
先端メディアサイエンス学科では、プログラムの設計、開発技術を体得してシステムとメディアを表現する仕組みを理解したうえで、人と密接にかかわる情報メディアの最先端に達することを目指します。
ネットワークデザイン学科では、最適かつ安全のネットワークをつくる。電力網や、コンピュータの内部の回路網などです。
今後の「情報」教育について
高校における情報教育が大きく変わると聞いていますが、それぞれの学部で「情報」に関する教員免許との関係性についてお伺いできますか。
石川
高校の教科では、2013年度から従来の「情報A」という科目がなくなり「情報B」、「情報C」が、「情報の科学」、「社会と情報」という名称で、それぞれ再編成されて、どちらかを必修にするという形で、来年度の高校1年生から新カリキュラムとしてスタートします。
今後この高校の教科「情報」というのは非常に重要になると思っています。加えて、高校で教科「情報」を教えられる情報免許を持った高校の教員が、これからどんどん重要視される機会が増えてくると思うわけです。我々の学部では情報の教員免許が取れるような仕組みがありますので、そういう意味でも注目されていく学部になるのではないかと思っています。
砂田
現象数理学科は数学(中学・高校)の教員免許、先端メディアサイエンス学科、ネットワークデザイン学科は情報の教員免許を取れるように科目配置をしています。とりあえず出発点としては、どの学科を選ぶかによって数学あるいは情報の免許が取れるようになる予定です。近い将来できるだけ早い段階で、数学、情報双方ともが全ての学科で取れるような体制をつくっていきたいと考えています。
明治大学ブランドをさらに高いものに
最後に、今後の抱負をお願いいたします。
砂田
理系学部である総合数理学部と文系学部である国際日本学部という2学部が中野キャンパスに併存することをまず活かしたいと思います。
1つは新学部の我々の学部も国際的に活躍できる人材を輩出したい。そのためには留学生の受け入れや、英語だけで単位取得できるイングリッシュ・トラックの整備を長期的な視野で考えていきたい。それから我々の学部の教員自身が、数理科学と情報技術の分野のパイオニアである人たちが多く集まっているので、研究の上でも世界のトップに立ちたいと期待をしています。さらに地域との連携も考えていきたい。
石川
いろいろな社会問題の解決に向けた運動を国際的な視野に立って推進する市民グループの結成や、将来的にはNPO設立を含めた、組織的な活動に展開できるムーブメントを学部の中で育てていきたいと思っています。
また、教員が率先して複数の学問領域を横断しながら物事を把握する実践を範に示していく。それによって旧来の学問領域ではカバーできなかった問題が総合的に解決されると同時に、新しい学際的な学問領域が新たに創出する。そこまで研究面では進んでいきたいと考えています。
砂田
まさに大賛成です。理系の学問全体の中でもタコ壺化ということがよく問題視されます。結局なかなか自分の世界の外に出ていかない。それが教員の中で起こっているから学生もそうなってしまう。新しい学部では、学科はもちろん学部を越えた形で連携していきたい。オール明治の立場から明治大学ブランドをさらに高いものにしていきたいというのが、私が夢見ていることです。
歌代
社会の変化に対して、大学に求められるものも変化しています。明治大学の中では新しい2つの学部での「情報」に対する取り組みは、その対応の一つといえます。人材育成や研究の面で、その成果を拡大していくことを期待しています。