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朗読劇『銀河鉄道の夜』東北ツアー 賢治の想像力を、勇気となぐさめに



理工学研究科新領域創造専攻ディジタルコンテンツ系の管啓次郎研究室では、小説家の古川日出男氏、音楽家の小島ケイタニーラブ氏、翻訳家の柴田元幸氏との共同プロジェクトとして昨年から朗読劇『銀河鉄道の夜』を上演してきたが、このたび秋の東北ツアーを行い各地で好評をもって迎えられた。

明治大学震災復興支援センターとの共催により大船渡市、仙台市、福島市で公演を行った本年春の東北ツアーに続き、今回は出版文化産業振興財団JPICおよび読売新聞社との共同主催により住田町(9月22日)、南三陸町(23日)、喜多方市(24日)にて全公演無料で上演。水難事故と自己犠牲の物語を神話的な広がりのあるシナリオに仕立て、コミカルなラップとダンスの場面を新たに導入し、笑いと涙にあふれたステージで観客を魅了した。

昨年3月11日の震災を受けて編まれたのが、国内外31人の詩人・作家たちが作品を寄せた鎮魂の書『ろうそくの炎がささやく言葉』(勁草書房)。朗読のための小さなオリジナル作品のアンソロジーだが、札幌から那覇にいたる全国各地で朗読会が開催され、大きな反響を呼んだ。その本の延長上に構想されたこの朗読劇では、宮澤賢治の不朽の名作から古川が大胆に切り出したオリジナル脚本に、管による自作の詩、小島による主題歌と音楽、柴田による英訳が絡み合い、4名全員で演ずる。類例のない新鮮な形式の朗読劇で、土地ごとに少しずつ演出が変えられた。とりわけ津波後に多くの遺体の安置所として使われたまさにその場所(ベイサイドアリーナ)で上演した南三陸では、演ずる側も極度の緊張を強いられたという。

人と動植物や自然、宇宙を強くむすびつける賢治の想像力は人に勇気を与え、声の直接的な力は人になぐさめをもたらす。貧しい少年ジョバンニと、友人を助けるために川に飛びこんで溺れたその親友カンパネルラの物語、そしてそれと並行して作中で語られるタイタニック号沈没の物語は悲痛この上ないが、そこに込められたメッセージの強さはきわだっている。エンディングは主題歌「フォークソング」の大合唱で、覚えやすいメロディーに合わせて口ずさむ観客も見られた。年内に都内での再演を予定している。

(管啓次郎・理工学部教授)