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本棚『ネアンデルタール人 奇跡の再発見』小野 昭 著(朝日選書、1,300円)



ネアンデルタール人。私たち現生人類ホモ・サピエンスの起源を考える上で、ヨーロッパで長らく激しい論争が繰り広げられた化石人類である。

1856年、ドイツのネアンデル渓谷の小洞窟で発見された人骨にちなんで命名された。しかし、間もなくセメント用石灰岩の採掘で、この洞窟は跡形もなく失われてしまう。

1980年代にこの洞窟を突き止める発掘が行われたが、失敗に終わった。しかし望みを捨てない若い考古学者二人が、19世紀の断片的な諸記録も検討し、ついにその洞窟を再発見する。1997年に発見した小骨片が、1856年発見の模式標本人骨にピタッと接合したのだ。

ドイツ・ヨーロッパにおける旧石器時代研究に日本でもっとも詳しい小野氏が、当事者からの情報提供をもとに、これまでの道のりを鮮やかに描き出す。研究の原点を求めて入念な考古学・人類学的吟味から得られた成果だが、奇跡の瞬間はやはり息をのんでしまう。

石川日出志文学部教授(著者は研究・知財戦略機構特任教授)