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本棚『イギリスの四季:ケンブリッジの暮らしと想い出』宇野 毅ほか 編著(彩流社、1,800円)



仕事や留学で英国を訪れた日本人が彼地の奥深い魅力に囚われ、再訪を繰り返す話はよく聞く。本書は、ケンブリッジで在外研究に従事した人々を中心に27人の著者が、そんな幸福な英国経験を、それぞれの専門、趣味を交えたユニークな視点から綴った随筆集である。

佳品揃いの中から一篇だけ要約紹介する。

還暦を迎え、自らの研究活動に見切りを付けかけていた老教授がケンブリッジに単身留学する。何を今更という自嘲とは裏腹に、妙に殊勝な向学の想いが募り、此地には何か他処と違う地霊でも住むかと怪しむ(ケンブリッジでニュートンの姿を幻視したコールリッジの文章が引かれる)。勇を鼓し、親日家で気品あふれる老婦人の英会話指導を受ける。婦人に勧められたカレッジ庭の簡素な野外劇で『夏の夜の夢』に啓示を受けた老教授は、自分の旅がシェイクスピア、そして同学の人々との出逢いのためのものであったことに気付く。

カレッジのケム川沿いの庭園(バックス)を巡り歩く様な幻想に誘われる一冊である。

杉崎信吾・商学部教授(編著者は経営学部教授)