Go Forward

新しい学びの場の創設に向けて

情報コミュニケーション学部長 石川 幹人


先日、大学に向かう電車の中で、高校生らしき集団が大声で何やらしゃべっており、聞くつもりもないのに、聞こえてしまった。「明治大学って、すごい人気だぜ」「受験者数日本一らしいね」「もう儲かってウハウハだね」「いいよなー」という内容だった。

前半はいいにしても、「儲かってウハウハ」は、明らかに間違っている。訂正してやろうかと気色ばんだが、大人げないかなと、思いとどまった。

だが、この種の誤解は少なくないのではとも、思う次第である。そこで、本稿の場を借りて、まずは誤解の解消に努めたい。

ホームページに公開されている財務指標を見れば、本学の収支状態が誰でもわかる。たとえば、最近5年間の予算推移を見ると、収入増加は1割にも満たない。それに対して、教職員数は1割以上増えており、その経費支出が収入増加以上に増えている。さらに、教育研究経費は1.5割ほど増加している。

つまり「人気が出た」のは、教育研究に関する人的サービスを向上させたり、教育研究に必要な環境を整備したりした実績が、順調に反映された結果であると言えるのだ。
実際、2012年度の決算では、単年度の収入と支出が拮抗しており、新しい建物を建てるなどの、長期的積立に回すお金がなくなっている。したがって、ここ数年は緊縮した大学運営をせまられる状況になっている。

しかし、支出がかさんでいる主要因は「少人数教育」である。各学部とも、従来型の大教室の講義形式を改め、講義の少人数化や、ゼミ形式授業の増加につとめている。緊縮運営だからといって、この傾向を止めるわけにはいかない。

というのは昨今、学生の多様化、学びの多様化が起きているからだ。「授業に出てノートを取り、勉学を積んで試験を受ける」という伝統的な学びに順応する学生は減っている。
加えて、インターネットで無料公開されている「大学授業」を視聴すれば、わざわざ大学に出てきて同様の授業を聞く必要はないと言われる時代でもある。

すなわち大学は、少人数教育だけでなく、学びの形態を根本的に変える必要にせまられているのだ。たとえば、講義内容はネット配信して家で視聴し、大学に出てきて質疑や討論をするといった「逆転授業」も、多様性をはぐくむ教育として効果的であろう。

今後の大学では、多様な学びの場の創設が求められている。しかも、そうした場の創設を、健全財政の中に位置づける工夫が必要なのである。既存制度との共存を図りながら、支出増加を招かない知恵が望まれるわけだ。

変化の激しい時代に向けて、大学人は一致協力していち早くこうした検討を進めねばならない。今後の本学のさらなる発展を見守っていただきたい。

(情報コミュニケーション学部教授)