Go Forward

バイオリソース研究国際インスティテュート 医学研究用ブタを効率的に作出する技術を確立

再生医療、新薬の評価・開発に弾み

生命科学研究を支える資源。さまざまなノックアウト細胞が冷凍保存されている(写真:渡邊講師)

明治大学バイオリソース研究国際インスティテュート代表の長嶋比呂志農学部教授、同インスティテュートの渡邊將人特任講師、自治医科大学の花園豊教授らの研究グループは、人工酵素と体細胞核移植を組み合わせた効率的な方法により、短期間(6カ月)で免疫不全ブタを作ることに成功。科学技術振興機構(JST)のホームページと米国の科学誌「PLOS ONE」を通じて、10月10日(日本時間)に世界同時発表を行った。この成果により、新薬開発における安全性、幹細胞治療法やがん治療法の評価・開発、ブタ体内でヒトの血液や臓器をつくる研究が飛躍的に加速する。

再生医療や創薬評価において、ヒトをより忠実に反映する知見を得るための医学研究用ブタは、特定の遺伝子機能を消失(ノックアウト)させておく必要がある。それらのブタを作出する従来方法は、外来遺伝子の導入を伴う相同組み換えが利用されていた。しかし、その方法は手順が煩雑で、目的の遺伝子で組み換えが起こる確率が低く、多くの時間を要するものだった。また、ゲノムに外来遺伝子を挿入する際に、目的以外の遺伝子機能を傷つけてしまうリスクを抱えていた。

研究グループは、これらの問題を解決。全く新しい遺伝子編集ツールである人工酵素(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)の発現にDNAではなくmRNAを用い、体細胞核移植技術を組み合わせることで、目的以外の遺伝子機能を傷つけるリスクなく、短期間に免疫不全ブタを作ることに成功した。

政府も後押し

構造的にヒトに近いブタの体内を借りて臓器や血液をつくる研究は、長年にわたり期待されてきたが、実現は遠い先のことと考えられていた。しかし、京都大学の山中伸弥教授が開発したiPS細胞の登場で事態は大きく変わった。

政府も法的な整備に乗り出し、世界的に日本が最先端を走る研究をバックアップする。8月1日に開かれた総合科学技術会議(議長=安倍晋三首相)の生命倫理専門調査会では、動物の体内でヒトの臓器をつくる研究を容認する見解をまとめた。これを受け文部科学省では、ヒトの細胞を入れた動物の受精卵(胚)を動物の子宮へ戻すことを禁止していた「クローン技術規制法(2000年制定)」に基づく指針の改定作業を進める。

ノックアウト

遺伝子の機能を欠損させる遺伝子工学技術の1つ。遺伝子ノックアウトは相同組み換えによる方法や、最近ではジンクフィンガーヌクレアーゼなどの遺伝子編集ツールを用いて行うことにより可能である。特定の遺伝子を不活性化させ、正常個体と比較することで、その遺伝子の機能を推定することができる。遺伝子ノックアウト動物は、遺伝子ノックアウトの技法によって1個以上の遺伝子が無効化された動物であり、疾患原因の解明、治療法の開発などに大きく貢献している。

ジンクフィンガーヌクレアーゼ

ジンクフィンガーと呼ばれるDNAに結合する性質を持つたんぱく質のドメインと、ヌクレアーゼと呼ばれるDNAを切断するハサミの役割を果たすたんぱく質のドメインから成る人工酵素。ジンクフィンガードメインは任意のDNA配列を認識するように改変が可能であり、これによってジンクフィンガーヌクレアーゼが複雑なゲノム中の特定の遺伝子を標的とし、DNAを切断することができる。DNA切断後は、生体が持つDNA修復機構を利用して再度つなぐことで、ゲノムDNAを自在に切り繋ぎし編集することができる。2009年、世界で初めてジンクフィンガーヌクレアーゼを用いて、遺伝子ノックアウトラットが作製され、生物種を問わず遺伝子ノックアウトを可能とする革新的ツールである。