スロヴェニア語の美しい響きを堪能
管 啓次郎教授
スロヴェニアから、同国を代表する4人の現代詩人が来日し、日本の現代詩人との間で相互翻訳のワークショップと朗読会を行った。
スロヴェニアはイタリア、オーストリア、ハンガリー、クロアチアと隣接する中欧の国。ラテン系、ゲルマン系、スラヴ系のすべての要素が交錯する。アルプス山脈からアドリア海まで、地理的多様性に恵まれ、森林の豊かさでも知られる。今回はミラン・デクレバ氏、アレシュ・シュテゲル氏、ガシュペル・ビウシェク氏、カティア・ペラト氏という、60代から20代までの4人の詩人が来日。日本側からは福間健二氏、野村喜和夫氏、三角みづ紀氏の3詩人と管啓次郎の4人が参加し、リュブリャナ大学日本語科の守時なぎさ教授や筑波大学のスロヴェニア人留学生、明治大学ディジタルコンテンツ系の大学院生らを交えながら、詩人たちが相互の作品を徹底的に論じ合い、それぞれの言語に移していくという稀有な場が実現した。
スロヴェニアでは詩の人気が高く、朗読会にも多くの人が集まる。同国北部の歴史的な町プトゥイで毎年夏に開催される「詩とワインの祭り」には、毎年20人余りの詩人が世界中から招待される。今回の試みは昨年プトゥイで行われた相互翻訳ワークショップの継続であり、詩的言語の翻訳と生成の現場を見つめ直す貴重な実験。わずか2日間ではあったが、集中した共同作業を行い、その成果を明治大学(11月3日)および神戸大学(11月5日)での朗読会によって発表することができた。東京での朗読会には、今年の夏に単身プトゥイの詩祭を経験した詩人の橘上氏も加わった。
難解なものとして遠ざけられがちな現代詩だが、そんなことはない。詩人たちの肉声で読まれるとき、熱のこもった、はっきりしたイメージが生じる。スロヴェニア語の美しい響きを堪能することのできる日本では稀な機会でもあった。