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入学者選抜のあり方を考える

副学長(教務担当)兼教務部長 竹本 田持


昨年10月、教育再生実行会議が「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」を公表し、そこに示された入試改革案が話題となっている。2014年度入試直前でもあるので、入学者選抜について雑駁な私見を述べてみたい。

これまで、本学の入試にいくつかの立場で関わってきたが、全学的に関わる職務に就いてみて、入試業務には多くの教職員が関わり、多大な労力と時間とに支えられていることを再認識している。大学にとって、入学者選抜が極めて重要であることは論をまたない。大学入学を目指して必死に勉強し、問題を解いている受験生を受け止める私たちが、そこに労力と時間をかけるのは当然である。しかし一方で、入学した学生への教育は大学としての使命であり、授業時間を確保することは基本的責務である。また、教育力を高めるため、社会的課題に対応するためにも研究の推進、深化が不可欠である。

もし、入試業務が授業時間や研究時間に過度に影響を与えているとすれば、本末転倒であるし、学生にとっては迷惑な話である。「入試突破が目的化し、合格したことで満足してしまい、入学後の勉学意欲が喪失している」と学生を批判することがあるが、教える側も入学試験の負担によって教育・研究をおろそかにしたら、同様の批判は免れないだろう。

ところで、教育再生実行会議の提言は、「知識偏重の1点刻みの大学入試」と「本来の趣旨と異なり事実上学力不問の選抜になっている一部の推薦・AO入試」が問題であり、その解決策として高校で達成度テスト(基礎レベル、発展レベル)を実施し、その結果を「各大学の判断で推薦入試やAO入試にも活用する」とともに、「各大学が創意工夫により、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定する入学者選抜に転換する」としている。要するに、推薦入試やAO入試には学力審査を取り入れ、一般入試は学力偏重を解消して多面的・総合的に判定するように、との提案である。前者の推薦入試やAO入試への学力審査の導入は理解できるが、後者についてはどうだろうか。

受験者数が少なければ、多面的・総合的に判断することも不可能ではない。しかし、多くの受験生を面接等でじっくり人物評価しようとしたら、基準をどうするか、何人で行うか、どのくらいの時間をかけるかなど、いくつもの問題があるし、とても短時間では終わらない。「1点刻み」とされる方法はBestとは言えないかもしれないが、受験生自身が自己採点を行って振り返ることもできる一般入試は、現状では最も公平性が確保されている。

また、提言は受験生の負担には目を向けているが、上述したような大学側の入試業務負担、それに伴う問題点にはほとんど触れていない。個人的には、大学教員が平素は使っていない高校教科書をもとに問題を作成するリスクと労力は大きく、高校側が達成度を示すことは有効な方策の一つになると思う。大学がポイントを絞り込んだ個性や独自性のある簡素な筆記試験を課して、達成度評価と組み合わせて合否判定することも考えられる。ただし、達成度評価は全国統一の基準により公平・公正で、かつランク評価ではなく点数化されたものでなければ大学側での利用は難しい。結局のところ、選抜するためには「1点刻み」で区切らざるを得ないからである。

(農学部教授)