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本棚『社会政策を問う—国際比較からのアプローチ』加藤 久和 著(明治大学出版会、2,700円+税)



働いて収入を得ることにより、日々の暮らしを賄い、長期的な生活を維持する。これが現代社会の基本であるが、それで充分ではない。良い仕事に全ての人がうまく就けるわけではないし、就けたとしても人々はより良い状態を求めるので、転職や失業も発生する。そうでなくとも、病気になったり、高齢になって働けなくなることもあるし、育児や介護に専念せざるを得なくなることもある。つまり、私たちの生活や暮らしは、自らが働くことを中心にしつつも、社会保障や社会福祉と強く関連しながら展開されている。

現在ではこれらの学問領域は、「労働経済学」と「社会保障論」に分化されることが多いが、本書では、分化される以前に広く用いられてきた「社会政策」という用語のもとに、これらに関する議論を一元的に展開している。そのような本書の最大の特徴は、そのサブタイトルにあるように、豊富なデータによる国際比較を手際よく行っていることである。

この領域の課題を考える際には是非、本書の一読をお勧めしたい。

永野 仁・政治経済学部教授
(著者も政治経済学部教授)