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本棚『昭和文学の位相 1930-45』 佐藤 義雄 著(雄山閣、8,400円+税)



466頁に及ぶ大著である。収められた14本の論文は、1974年から40年の長きにわたっている。この間著者は、一貫して1930-45年という、昭和の最も困難であった戦争の時代の文学者たちを追究している。つまり、著者は「思想」に蹂躙された人間の「個」の回復、そして尊厳の問題に関心を示し続けてきたのである。第1部ではプロレタリア文学の行方として、三好十郎、中野重治、本多秋五らを、第2部では島木健作の初期短編や『生活の探求』などを、第3部では井伏鱒二と太宰治を対象にしている。いずれも政治と文学、あるいは思想と叙情がテーマであり、その政治や思想に挫折を味わい文学に拠り所を求めた人達である。それを「時代の『良心』の屈折した方向」という言い方で示し、時間をかけて丁寧に作品に寄り添って読み解いている。それはまた、40年に及ぶ著者の良心の方向でもあると言えるだろう。昭和の戦時下における、文学に生涯を賭けた人達への熱い思いが全編から伝わってくる。姿勢を正して読むことを促される、渾身の一冊である。

池田 功・政治経済学部教授(著者は文学部教授)