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本棚『他者のトポロジー 人文諸学と他者論の現在』岩野 卓司 編(書肆心水、6,300円+税)



他者とは誰のことだろうか、何のことだろうか。他者はどこにあるのだろうか、どこにいるのだろうか。そして自己は。誰もこれらの問いと無縁ではありえない。生きることは何らかの仕方でこれらの問いを思考し続けることに他ならない。

かつて「非自己」と呼ばれていたものが「他者」と名指しされることで始まった思考の冒険、それはレヴィナスなど数多の思想家たちによって様々に敢行されはしたが、根本的な回答を得られぬまま、山積する問題の荷重に押し潰されて半ば放棄されつつあるかに見える。

そうした状況のなか、本論集は、他者という問いへの理論的な応対を怠ることなく、しかしその一方で、「日本的」共同体とそれが抱える深刻な諸問題にも真摯に向かい合いながら、ヘーゲル、バタイユ、フロイト、ラカンだけでなく、古今東西の詩人たちからイギリス法、性、ユダヤ思想にも亘る複眼的視点から、各照射の連続と不連続を通じて、他者問題の諸相とその微細な陰翳を、その奇妙な「ねじれ」を語り直すことに成功している。

合田正人・文学部教授(編者は法学部教授)