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本棚『ドストエフスキイとセザンヌ 詩学の共生』近藤 耕人ほか著 (晃洋書房、2,500円+税)



20世紀芸術の革新は19世紀に準備され、同時代の詩学(創作の論理)を内側から喰い破りつつ実現されていった。小説ならドストエフスキイ、絵画ならセザンヌ。いずれもモダニズム芸術の最大の先駆者と呼んでいい。その特徴に最低限の定義を与えるなら、あらかじめできあがった人が世界を論ずるのではなく、世界との遭遇という運動においてそのつど生じる何者かが世界を記述し描写するということにつきる。その表現がときおり狂気に似るのは、理性の予定調和を徹底的に拒絶しているからだ。

批評家と美学者の出会いが生んだ本書も、創造的な狂気を湛えている。東京と京都に住みつつ、20世紀芸術に対する互いの関心に独特な近さを感じた近藤耕人と山田幸平の二人は、共著の制作を誓う。山田が書いた文章に応答すべく近藤が新たな論考を試み、山田の没後に約束が果たされた。誰のものでもない声の果てしない談話が続くような不思議な本だが、ページはしばしば眩い光を放ち、われわれの眼を射る。沈黙とぬくもりに裏打ちされた、小さな好著だ。

管啓次郎・理工学部教授(著者は名誉教授)