Go Forward

告 辞 高き理想の実現に向かって

学長 福宮 賢一
卒業生の皆さん、卒業・修了おめでとうございます。

これまで、ご子女の勉学を温かく支えてこられたご父母ならびにご関係の皆様、学業の区切りを迎え、お慶びさぞかしのことと存じます。心からお祝いを申し上げます。

2011年度入学の皆さんは、入学式を経験することなく、今日を迎えることとなりました。東日本大震災とそれに伴う原発事故の影響を受け、2011年は、卒業式に続いて入学式の挙行も断念せざるを得ませんでした。余震の続く中、計画停電や交通機関の乱れ等の事情から、安全を最優先に考え、慎慮の末の判断でした。大変、心残りな決定ではありましたが、当時の諸般の状況を何卒ご賢察くださり、ご理解いただきたく存じます。

また、多感な青年期に類ない震災を経験した卒業生の皆さんは、何気ない日常に内在する安寧の尊さを感じことでしょう。その想いを胸に、本学での勉学や課外活動を通じて、本震災と向き合った皆さんだからこそ、他者への共感を育むとともに、厳しい現実の中にあっても、必ず灯る光に希望を託す大切さを学んでくれたと確信しています。

さて、卒業生の皆さんは、学部、大学院、法科大学院、そして専門職大学院の各課程を修了し、今日を境に共通の学び舎を離れて、それぞれがそれぞれの人生を歩みはじめます。本学卒業生約8000名が辿る道筋は、一つとして同じではありません。しかし、皆さん一人一人の歩みが記す足跡は、昨日とは異なる今日と、今日とは異なる明日へ向かう証を意味しています。それぞれが社会的分業の一端を確実に担い、日常の着実な前進を図ること、このことが、私たちの社会や、そして世界を、明るい未来へと導くのです。

その毎日は、荒れ野を肥沃な大地に変える開墾にも似た作業です。酷暑も厳寒の気候も厭わない、地道な努力の継続こそが豊かな果実の収穫を可能とします。課題の解決や障壁の克服に弛まず立ち向かう意思をもつことの根幹には、実現を強く求める高い理想が必ず存在します。

私たちを取り巻く現在の世界に目を転じれば、貧困、飢餓、利害対立、軍事紛争、テロ、そして経済危機など、グローバリゼーションの影の部分が世界に広がりつつあるかのように思われます。さらに、疫病の流行、天災、そして地球温暖化問題など、われわれの課題を一層深刻なものとしています。

私たちは、この殺伐とした困難な時代にたじろいではいないでしょうか。今こそ、高い理想を掲げて、人類の英知を結集すべき時であると考えます。世界中の人々と、平和と豊かさを共有し、次の世代を担う子どもたちに笑顔をもたらすためには、何をなすべきなのか。卒業生の皆さんは、明日からの毎日において、それぞれの職責を果たすことが世界にどのようにつながっていくのか、常に問い続ける必要があります。希望に溢れる世界を構築する役割は、皆さんに託されています。

人は、その困難な道筋を一人で歩むのではありません。人は、多くの人と人とのつながりの中で、所属する組織の中で、社会という広がりの中で、そしてグローバルな環境の中で、他者とともに歩むのです。その場においては、ものごとの本質を鋭く見極める論理的思考力と深い人類愛に裏打ちされた異文化理解力が必要とされます。何よりも、多様性の存在を認め、相互に寛容の精神をもつことが求められます。

本学の建学の精神である「権利自由」「独立自治」は、基本的人権の尊重と自立した個人の確立を謳うものであり、現代のグローバル社会においてこそ、一層重要となる普遍的理念と言えます。その継承者の一員となった卒業生の皆さん、本学での多面的な学修を通じて獲得した未来開拓力を存分に発揮して、混迷の時代をしなやかにたくましく生き抜いてください。

最後に、2014年度卒業生に一言贈ります。未曾有の災害にも負けず、学業によく精励され、明治大学の全課程を見事に修了されました。その努力を、心からの敬意をもってたたえます。卒業おめでとう !

皆さんの前途が、幸多く実り豊かなものとなることを祈ります。そして、明治大学で再びまみえる日を楽しみにしています。