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本棚『歌の原初へ 宮古島狩俣の神歌と神話』居駒 永幸 著(おうふう、4,500円+税)



本書は、著者の24年間にわたる狩俣研究の集大成ともいうべき本である。専門的な民俗調査には及ばないとしているが決してそのようなことはなく、詳細な聞き取り調査の記録を中心に編まれている。ヤマトンチュウである私には、祭祀者をさすアブンマやアーグヌシュという言葉は耳馴れず、ひらがなで綴られた長文の神歌にいたっては、その内容を想像することすら難しい。しかしその活字を目で追っていくうちに、繰り返されるフレーズが耳の中で響きはじめる。神とともにある言葉とは、意味ではなく音の響きやリズムであったと改めて気づかされた。呪文のような言葉のはてに、祭祀の場に居合わせているかのような錯覚にも陥った。まさにそれが言葉の持つ力であり、「歌の原初」の姿ということなのだろう。

また、現地での交流を大切にする姿勢にも共感した。研究書らしくない本にしたかったという著書の言葉通り、狩俣に生きる人々とともに本書はある。文学とは人の心に寄り添うものなのだ。その著者の思いに思わず心が熱くなった。

堂野前彰子・経営学部兼任講師(著者は経営学部教授)